×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -




ガイスト・ガール - 20



騎馬戦の結果、爆豪チームは結局二位だった。一位に轟チームがいるところを見ると、緑谷も爆豪も一千万ポイントには辿り着けなかったらしい。残りの一チームは、実況で一度も名前の出ていない心操チーム。一体どういう動きをしていたのか、幽姫にはよくわからなかったが、どうやらギリギリになって上位をキープしていた鉄哲チームから得点を奪って逆転したらしい。

「――物間くん!今度、ゴローちゃんの昔の写真持ってきてあげるね!」
「いらないんだけど」
「そんなこと言わないで〜。あのね、実はゴローちゃん、生前は黒猫だったんだよ!今は白かったでしょう、幽霊は全部白いからそうなってるだけなの。印象ガラッと変わるからね、すごく可愛かったんだからあ」

ラスト二十秒でポイントを失った物間チームは、当然決勝には進むことができない。
二回戦終了直後は揃って悔しいなと言い合って――特に物間はかなり頭にきていたようだった――いたのに、今や幽姫のゴローちゃん語りが留まるところを知らない。

「いや別にそんな興味ないし……あああああ」
「あ!ちょっとゴローちゃん、意地悪しないの!」
「……元気だな、お前ら」

円場が乾いた笑いをしながら呟いた。

興味ないなんて言い放つものだから、ゴローちゃんは機嫌を損ね、物間を浮かせてブンブン空中で振り回してやった。すぐに幽姫が止めたので大したダメージではないが、物間は更にむすっと顔をしかめる。

「ああー、もういいよ、勝手にしなよっ」
「ふふ、ゴローちゃん、物間くんもゴローちゃんの生前の写真見たいって!」
「見たいとは……はあ」

また否定して振り回されてはかなわないと、物間は深いため息をつくにとどめた。正しい判断だ。
代わりにあからさまに肩をすくめて見せ、嫌味っぽい口調でこう言った。

「霊現さんって、やっぱり一筋縄じゃなかったんだね!肝に命じておくよ」
「え〜。ゴローちゃんじゃなくて、私が?」
「そりゃそうさ。さすが、爆豪の“彼女”だけあるよね、揃って厄介だ!」

ふん、と物間が鼻を鳴らした。その向こうで円場と黒色は若干苦笑気味である。
そんな彼らを見て、幽姫はきょとんと目を丸くする。

「……私、爆豪くんの彼女じゃないよ」

そのまま否定すると、物間達の方も同じようにきょとん顔になった。

「え?」
「でも、一緒に帰ってたんでしょ」
「一緒には帰ってるけど」
「休み時間とかも」
「一緒にいるかな」
「……付き合ってんじゃないの?」
「違うよ〜。なんて勘違いしてるの」
「は〜!?ほんと君達って意味わかんないね!」

結局、物間が疲れ果ててキレ気味に声をあげたので、やっと爆豪と幽姫の付き合ってる説が否定された。
鉄哲の奴、間違った情報掴まされたな――なんて呟いた物間は、はあと深いため息をつく。

「なんだよ、もう。彼女が別の男のチームに入ったら精神的ダメージ与えられるかなと思ってたのに」
「そんなこと思ってたの?本当に物間くんって性格悪いね〜」

幽姫をチームに迎えた理由は、A組対策という一言で片付けられていた。それだけじゃなさそうだな、という気はしていたが、まさかそういうことだったとは。

「うるさいなあ」
「まあ、これで悪い奴じゃないんだ」
「大目に見てやって」

ふてくされる物間のフォローのつもりか、円場と黒色は苦笑しながら彼の肩を両側からポンと叩いた。

「物間も機嫌直せって、昼飯行こーぜ!」
「霊現さんも来る?」
「え、いいの?」

当たり前のように誘われて、幽姫は思わず問い返した。発案の黒色はいいに決まってるじゃん、と頷いた。

「チームメイトだし」
「彼氏いるならアレだけど、違うなら気にすることないでしょ。な、物間」
「……別に、好きにしたらいいんじゃないの?」

明らかに不機嫌な物間でさえ、あっさりとオッケーを出した。そういうものなのかな、と幽姫は目を瞬く。なんせこちらは、爆豪以前にまともな人間の友達がいなかった類の人間だから、そのあたりの距離感が掴みにくい。

「あ、友達と約束してるなら気にすんなよ?」
「そういうわけじゃないよ〜。うん、じゃあ――」

折角だからご一緒しようかな、と。言おうとしたのだが。

「――テメェ、なにくっちゃべってんだ鈍間!」
「わっ!あれ、爆豪くんっ?」

ガシィッ、とやたら強い力で腕を掴まれて、思わず驚いた声をあげてしまった。
振り返ると不機嫌な顔の爆豪が睨みつけてきて、さらに驚く。先ほど控え室の方に向かったのを遠目に見かけていたので、てっきりそのまま切島達あたりと食堂に行ったと思っていたが。

爆豪の顔を見た途端、ゴローちゃんはぴょんと爆豪の頭の上に飛び乗った。ピクリと反応したのでゴローちゃんの重さに気づいたらしい。

「食堂行ったんじゃなかったの?」
「ああ!?行ってねえよアホか死ね!」
「え〜……なんか、不機嫌だね」
「テメェ……!自分が何しでかしたか、わかってねえとは言わせねえぞコラァ!!」
「ええ?」

爆豪が随分キレているのだが、やはり騎馬戦でも一位を取れなかったことを気にしているんだろうか。二位なら十分な結果だと思うけれど、一番に固執するタイプの彼には全然納得がいかないのだろう。

「物間くんが煽ったこと?でもあれは作戦の一部なんだから、あんまり気にしなくていいよ〜」
「ンなこと一々気にするかよ!物間って誰だ!」
「……なんか腹立つなぁあの言い方……」

物間はぼそりと呟いたが、激怒の爆豪に聞こえて飛び火するのは嫌だったので小声に留めた。

「じゃあ何に怒ってるの?」
「このっ……もういいわ!アホに何言っても伝わんねえだろーが!」
「アホじゃないけどなあ……」

結局爆豪ははっきりした理由も告げず、キレるだけキレて会話を打ち切った。なんという奴だという気もしたが、理不尽に爆破するわけでもないので放っておくことにする。

爆豪が腕を掴んだまま荒い足取りで歩き出した。幽姫は慌ててそれに続き、下手に反抗するのは死活問題だと咄嗟に判断して、物間達を振り返った。

「ご、ごめんね〜、なんか……誘ってくれてありがと〜」
「おー……お疲れ」
「手貸してくれてありがとなー」

黒色と円場が軽く手を振って返してくれた。それに軽く手を振り返してから前を向き直ると、爆豪が思い切り眉間にしわを寄せた横顔で物間達を睨むようにしているのが見えた。

「爆豪くん、どうかした?」
「……チッ!」

何か言いたげにして、結局爆豪は大きな舌打ちをしただけだった。
幽姫はそれを見上げて首をかしげる。ゴローちゃんは爆豪の頭上で、のんびりと耳を垂らして座り込んでいた。



「……ふーん。多少、僕の見解も間違いじゃなかったわけだ」
「まあ、意地の悪い発想だけどな」
「物間、勇者だなーお前。さっきの爆豪の顔見た?まじで人殺しそうだったぜ」

残された三人はそんな言葉を口々に交わすと、大分出遅れてしまった昼食に向かうため、やっと会場を後にした。



前<<>>次

[21/74]

>>Geist/Girl
>>Top