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ガイスト・ガール - 00



雄英高校入学初日。苛立った足取りで学校を出た彼を見て、生徒が数人ぎくりとして目を背ける。まずいものを見てしまったかのように。

爆豪勝己はいつにも増して機嫌が悪かった。ただでさえ鋭い三白眼は、その場にいない誰かに対する怒りでギラついている。それを見た周りの生徒達は、その矛先が己に向くのを恐れてそそくさと彼から距離をとる。そのくらい、爆豪の放つ雰囲気は禍々しい。

「あ」

この度晴れてヒーロー科の新入生として1-Aに配属された爆豪達は、つい先ほどまで体力測定を受けていた。
これまでとは違い、個性を自由に使用できる体力測定。自身の力に絶対的な自信を持つ爆豪は、もちろん順調に超常的結果を積み重ね、最終的には総合成績で3位を納めた。

「ゴローちゃん〜」

爆豪の不機嫌の理由はこの体力測定である。ただし普段の爆豪が引っかかりがちな『1位でなかったこと』ではない。もっと別のところ――いわゆる幼馴染の、“デク”のこと。

「ゴローちゃん待って〜」

気弱で無個性な、ずっと、確実に、自分より格下だった緑谷出久。唯一の雄英進学者という伝説を阻まれたこともまだ許していない。最下位は除籍、無個性でなよっちい緑谷であれば、どうやら早々に自分の前から消え去ることになりそうだと思っていたのに!結局除籍の話は嘘であったし、無個性であるはずの緑谷が――たった一度だけれど――爆豪と同じくらいの結果を叩き出して見せた。納得がいかない、腹立たしい、ふざけやがって。

後ろから、パタパタと駆けてくる足音。
「ね〜、ゴローちゃ――」
「うっぜえ!誰だテメエさっきからァ!!」

苛立ちをそのまま、振り返って吠えてぶつける。緑谷への怒りもさることながら、校舎を出てからずっとつきまとっていた、気の抜けるような声かけにも流石にキレた。

振り返った爆豪をきょとんと見上げたのは、真新しい制服の女子生徒。手入れされた髪は真っ黒、対して肌は不健康そうにさえ見える真っ白。大きく、眦の下がった瞳から、柔らかい雰囲気を感じ取れる顔立ちをしていた。

先ほど顔を合わせた相手であることは思い出されたが、興味のないクラスメイトの名前を一日で覚えるような性格の爆豪ではない。

「あ、うるさかった?ごめんね〜」

女子生徒は黒目がちの目をパチリと瞬いてから、爆豪に向けてへらっと、やはり気の抜けるような笑顔を見せた。
これまで出会ってきた大抵の相手は、爆豪の怒声を聞いた途端顔を真っ青にして一目散に逃げていったというのに。そういう態度も、なんとも言えず神経を逆なでする。爆豪は額に青筋を浮かべ、なお低い声で彼女へ唸る。

「うぜえつったんだよクソ女ァ……アホみたいな名前で呼びやがって、ふざけてんのか!?」
「ああ、違うの。間違えたわけじゃないよ、爆豪くん」

証明するように爆豪の名前を呼んでみせて、あんなに目立ってたからね〜、とへらへら。だったら何に声かけてんだよ、と。二人を遠巻きにする生徒以外、この場には爆豪とこの女子生徒しかいないというのに。

彼女も体力測定では、いくつかの超常的な成績を残していた。立ち幅跳びや、50メートル走、それから持久走だったか。詳しくはわからないが、自らの身体を宙に浮かせ、荒々しい動きでぶん回す――それが彼女の個性らしかった。飛行の個性だろうか、と呟いたクラスメイトがいたような気がする。

だが、しかし、へらへら笑っているこの女子生徒は、少し“おかしい”ような。

「ほら、ゴローちゃん、爆豪くんを怒らせちゃったよ〜」

また『ゴローちゃん』。不可解と不機嫌を混ぜた気分で、爆豪は顔をしかめる。女子生徒は爆豪に目を向けているように見えたが、その視線の先はなぜか爆豪の……右肩?

「迷惑だよ、そんなところにいちゃあ」
「テメエ何言ってんだ――」

爆豪は口を開いたが、ふと言葉を止めた。

「ああー、ゴローちゃん……」

女子生徒は困った風に笑って眉を下げる。爆豪の右肩に向けていた視線が、すっと地面に落ちた。
――と同時に、爆豪自身、右肩に乗っていた重みが消えたような感覚を覚えて目を瞠る。なんだ、今の感覚。

「爆豪くん」

女子生徒は苦笑して、視線を地面から爆豪に戻した。爆豪の驚いた表情に気づいているのかいないのか、なんでもない口調で続ける。

「ごめんね、ゴローちゃんが……ご迷惑おかけします」
「あ?」

その言葉の意味もわからなければ、結局ゴローちゃんが何なのかも――後者については、少し予想できるような気もするが。

「ゴローちゃん、爆豪くんのこと気に入っちゃったみたいで〜……まあ、見えないなら多分実害ないから、ついて回るのも大目にみてあげて?」

「オイコラ、そのゴローっつーのは、何だよ」

ついに爆豪が尋ねると、相手はさも当たり前のように答えた。

「――私の可愛いゴローちゃん。猫の幽霊だから、気まぐれなの」



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