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ガイスト・ガール - 17



三百九十点のハチマキを引っ掛けて、物間は少し満足げにした。

「漁夫の利。結構あっさりうまく行ったね」

緑谷チームに挑み、常闇の黒影に阻まれた葉隠チームは、まだ自分たちのハチマキがなくなったことにも気づいていない。

スタートの合図があり、多くの騎馬が緑谷チームの一千万ポイントを狙って駆け出した。とにかくポイントの多いハチマキを奪っていくことが、二回戦突破に向けた一番わかりやすい戦法。
その隙を狙おうという発想は、物間の底意地の悪さによるものだろうか。

「やっぱり霊現さんを入れて正解かな」
「ふふ、ならよかったぁ」

葉隠チームが一番狙い目だと、すぐ判断して物間に提言したのは幽姫だった。
騎手が透明で動きがわかりづらい点が、葉隠チーム一番の策だろう。しかし彼女が楽観的で猪突猛進型の性格だと把握していれば、緑谷チームを狙っている今、後ろから近づく別チームの動きに気付かないことが予想できる。即席で組んだ雰囲気もあり、後方の口田と砂藤は慣れない女子相手に集中力が足りていないようにも見えた。耳郎のプラグのリーチの長さも、背後からなら気にせずに済む。
物間のことだからB組の騎馬に前半から勝負を仕掛けるつもりもないだろうし、他のA組の騎馬はそれぞれ少し厄介だ。騎馬の構成を見て、一旦緑谷チームを標的から外せば、選択肢としてすぐ浮かび上がった。

物間が幽姫を誘い入れた理由は、『A組対策』だそうだ。
A組生徒の性格や個性をより把握し、効率的に得点を稼ぐための情報源。情に厚いタイプであればクラスメイトを売るような真似はしないが、幽姫がそういうタイプでないことを見越した上で、彼女をチームに招いたのだ。

「さて、じゃあそろそろ……」

二回戦開始から五分以上が経過。物間は目を細めて標的を定めた。
たった今、騎馬戦だというのに一人爆発に乗って上空に飛び出した、一番の標的を。

*  *

サポート科の装備アイテム、クラスメイトの個性らしい黒い影。一千万には届かなかった。クソッ!圧倒的一位を取るために、あれは絶対必要なのに。というかそれをあの緑谷が持っていることがもう腹立たしい。

すぐに追撃、俺が一番だ――と、緑谷チームの背を睨みつけた視界が、狭まっていたとしか言えない。

「――単純なんだよ、A組」

額のハチマキがぐいと引っ張られたのに気づいた時には、既に男の手に渡っていた。

「やられた!」
「んだテメェコラ!返せ殺すぞ!!」

振り返った相手は薄い笑みを浮かべてハチマキを振って見せた。
六百六十五点、障害物走三位の爆豪のポイントが加算された、初期値では二番目に高得点のハチマキだ。

――つーか、あの騎馬……!

ハッと思い出したのは、あの時向けられた後ろ姿。

「ミッドナイトが“第一種目”と言った時点で、予選段階から極端に数を減らすとは考えにくいと思わない?」

騎手の男曰く、予選の障害物走でパッとしなかったB組の成績は意図的なものだと。後ろからライバルの観察をするため、二回戦に進出できるだけの最低限の順位をとって、余力を残したと。
その場限りの優位に執着しても、仕方がないと。

「クラスぐるみか……!」
「まあ全員の総意ってわけじゃないけど、良い案だろ――人参ぶら下げた馬みたいに、仮初の頂点を狙うよりさ」

へらへら笑って、言う言葉がいちいち癪に障る。それに。

――なんでそんな奴の下についてんだ、テメエは……!

男の騎馬の一端を担う彼女と目が合った。相手は一瞬の後に、騎手の男を見上げた。また、目が逸らされた。

「物間くん、別のチームが来てる」
「ああ……あ、あとついでに君、有名人だよね?『ヘドロ事件』の被害者!今度参考に聞かせてよ――年に一度敵に襲われる気持ちってのをさ!」

――予定変更だ。
――こいつら全員殺す!!



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