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ガイスト・ガール - 16



※回原くんごめんなさい。

十五分間の交渉時間を経て、爆豪が最終的に馬として選んだのは切島、瀬呂、芦戸の三人だった。標的はもちろん、緑谷と轟だ。それ以外の端役には興味がない。興味はない、が。

交渉開始の合図があった直後のこと。彼女とばっちり目が合ったのに、相手は何も返さずに顔を背けてどこかへ行ってしまった。その態度もまたイラっとする。生意気な幽霊女のくせに。

別にチームを組みたかったわけではない。個性の相性で言えば切島や瀬呂を使った方が効率的に動けるし、轟への対策には、爆豪に誘いをかけた生徒の中では芦戸が一番適任だった。
どちらの方向性で考えても、彼女をチームに入れる――それも爆豪がわざわざ誘いに行ってまで――必要性がない。だからそれは構わない。そのはずだが、爆豪に見向きもせず、これまた見たことのない奴らに誘われるままチームを組んでいるのが気に入らない。

誰だあいつら、友人なんて自分以外にほとんどいないくせに――しかしそんなことを聞き出しに行くこと自体も、爆豪のプライドは許さなかった。
誰だ、あいつ。幽姫を後方左翼に置いて、涼しい顔で騎手を務める優男。

*  *

幽姫に声をかけてきた相手は、見覚えのない男子生徒だった。特別目を引くような特徴もない、ただ無害そうに微笑を浮かべているあたりは優男風。
ただし無害そうな微笑とは、えてして胡散臭く映るものだ。

「ええと、初めまして、ですよね?」

幽姫はおずおずと尋ねた。すると男子生徒はうん、とあっさり頷いた。

「敬語なんていらないよ、同じ、ヒーロー科なんだから」
「ああ、B組の人……」

同じ、が少しだけ強調して聞こえた気がしたけど。

「どうして私に声をかけたの?」
「障害物競走の時見てたよ。途中まで良い線いってたのに、残念だったね」

にこにこしたままそんな事を言うので、幽姫にはそれが皮肉なのかそうでもないのか判断がつかなかった。

「僕、B組の物間寧人。君の機動力を貸して欲しい」
「はあ……でも私、機動力ってほどでは……」

言いながらちらりとゴローちゃんを見下ろした。B組の彼をじっと見上げている。

「人ひとり浮かせるくらいならできるけど」
「充分さ」

物間と名乗った相手はそう言って、一歩こちらに歩み寄った。

「彼には振られたんでしょ?一緒に見返してやろうよ」

――彼?振られたとは?

幽姫にはその言葉が不可解に思えた。尋ね返そうとしたが、彼はそのまま流れるように幽姫の手を取ったので、つい目を丸くしてその表情を見上げてしまう。

その時、物間はハッと微笑を浮かべていた表情を硬くした。

「うわあっ!」

と、優男らしからぬ突拍子もない声をあげ、弾かれたように幽姫の手を離す。硬い表情をそのままに、さっと顔色が青ざめる。突然の異変にきょとんとした幽姫は、ついゴローちゃんと目を合わせた。ゴローちゃんもゆらりと首を傾げている。

「おいどうした?」

そこに慌てた様子で駆け寄ってきた男子生徒が二人。見かけない顔だが、自然に物間の隣に並ぶ様子を見て、彼と同じB組の生徒かと予想がついた。もしかしたら物間のチームメイトかもしれない。

「物間くんのお友達?なんだか急に調子が悪くなったみたいなの」
「はあ?」
「べ、別に、調子が悪いんじゃないし……!」

幽姫の言葉が心外だというように、物間は青い顔のまま顔をしかめた。どうもやせ我慢にも見えたが、さっきまでの胡散臭い微笑よりはマシに思える。
そんな物間の様子を見ていた男子生徒二人は、すぐに物知り顔で肩を竦めた。

「物間ぁ……安易にコピーすんなって言ったろー」
「自業自得だな」
「コピーって?」

彼らの言葉に、幽姫は首を傾げた。対して物間はむすっと口を引き結ぶ。反論はしないらしい。

「物間の個性だよ。触れた相手の個性をコピーできる」
「君のを勝手にコピーしたんだろ」
「ふーん……あ、そっか、そういうこと!」

幽姫はやっと理解して両手を合わせ、それならとゴローちゃんを見下ろす。

「ゴローちゃん、そういうことだから……っていない!」
「こっちにいるの!なんとかしてよ!」

悲鳴じみた声が聞こえて、幽姫は慌てて物間の方を振り返った。近距離からじりじりと物間に近づいていくゴローちゃんと、さらに青い顔でそのゴローちゃんから離れようとする物間。

物間が混乱する理由は身をもって理解できる。突然ゴローちゃんの記憶や感情が流れ込んできたからだ。幽姫などはもう慣れてしまったが、おそらく今、物間の頭の中はとめどない思いや記憶で混乱状態のはず。

「ああ〜、ゴローちゃんストップ!ね!やめてあげて!」

そんな一人と一匹に駆け寄る幽姫。ゴローちゃんは捕まってたまるかとでも言うように敢えて物間との距離を詰める。ひっと小さく悲鳴をあげてそれから逃げようとする物間――側から見たら異様な光景である。何もない空間に声をかける少女と、何もない空間に怯える少年の姿など。

「……何やってんだ、あの二人」

当然の疑問を呟いたのは物間のチームメイトである円場硬成で、それに同意して頷いたのが同じく黒色支配。彼らは呆れた様子で、物間に声をかけた。

「お前バカか?コピー消せばいいじゃん」
「時間の無駄だぞー」
「無駄ってなんだよ!」

物間は横目でゴローちゃんの様子を伺いつつ、そんな二人にこう反論した。

「――ちょっと待ってなよ、すぐこの子を理解してやるんだから!」

その言葉に面食らったのは幽姫である。理解してやる、なんて。彼女自身、自分の個性をきちんと使いこなせるまで五年はかかった。それをあっさり、すぐ理解してやるなんて豪語するとは――。

ゴローちゃんが、バッと物間に飛びかかった。

「うわっ急に来ないで!」
「ま、ゴローちゃん落ち着こ!ね!嬉しいのはわかったから!」
「どうにかしてよ、早く!」
「大丈夫!ゴローちゃん悪い子じゃないの!物理的には存在してないようなものだから、怖くないよ物間くん!」

「……ほんと、何見てんだろ、あの二人」
「時間かかりそうだな」

円場と黒色の予想通り、物間がやっとゴローちゃんに慣れたのはそれから五分後のことだった。



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