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ガイスト・ガール - 15



「テメエ、生意気言ってたくせに、遅えんだよ!」
「……なんで爆豪くんそんなに怒ってるの?」
「ああ!?うっせえ怒ってねえよ!!」

――うーん、一位じゃなかったからかな。
幽姫はすぐ予想がついたので、それ以上は爆豪に何も言わないことにした。
三位なら充分すごいし、まだまだ総合優勝も狙える圏内だろう。しかし彼はそれでも納得がいっていないらしい。向上心と対抗心の塊みたいな人だ、と幽姫はちらりと思った。

「最終関門が相性悪かったの、っていうか……」

幽姫は言いながら、爆豪の顔からもう少し視線を上にあげる。ご満悦な感情を垂れ流しているのが、幽姫にはありありと伝わってくる。それだけにとても悲しい気分だ。

「――ゴローちゃん、ほんとお願いだからちょっとは私のこと気にしてよ!」


第二関門は相性が良かった。綱渡りに苦戦する者達を置いて、ゴローちゃんの手を借りて中継地点を飛び移ることであっさり通過する。その時点で、十位以内には留まっていた。
でも、と幽姫は目を上げる。両の手のひらをエンジンのように使って、爆豪はどんどん先頭の轟に近づいていく。対する幽姫はといえば、すでに三キロメートル進んできたことで体力が減り始めていることに気づいたところ。

爆豪と距離が離れることに、隣を浮遊するゴローちゃんは随分不満げだ。

『さあ早くも最終関門!かくしてその実態は――一面地雷原!』

実況担当のプレゼント・マイクは楽しげに言うが、笑っていられない。最後に来て、少し気が緩めば爆発で足止め必至の地雷原。
ここまでゴローちゃんの力での跳躍をメインに走って来たものの、これでは着地の瞬間に地雷が爆発してしまう、迂闊に跳ぶのは愚策――と、そこまで考えて、白い靄がぴゅうっと前に出て行くのが見えた。同時に、ぐいっと身が引かれる感覚。

「えっ、待っ、ゴローちゃんストップ!!」

慌てて声をあげたが、数十メートル先を行く爆豪ばかり追うゴローちゃんにその制止は聞こえなかった――と言うか、普通に、聞こえないふりをされた。

気づけばゴローちゃんの独断で地雷原の上に飛び込んでいた。ちょっと、何も指示してないのに、こんなところで気まぐれ発揮なんて勘弁してよ――なんて頭の中を駆け巡り、着地のためとっさに前に出した左足が、円形に盛り上がった土の上を思い切り踏みつけた。
ドォォンッ!と大きな爆発音と煙が上がる。白い煙に紛れた白い靄は、煙が晴れた時その場にいなかった。

十五年間隣で生きて――あるいは死んで――きたゴローちゃんは、爆豪と比べて鈍間だった幽姫をあっさり見捨てて行ってしまったのだ。


そういうわけで、途中まで上位をキープしていた幽姫の最終成績は、パッとしない結果だった。おそらく順位も伸びていない。
馬鹿なことをして最初の地雷爆発を起こしてしまっただけでもショックだし、信頼している相棒に見捨てられたこともかなりショックだし。必要以上に地雷を警戒してなんとか地雷原を攻略し、やっとゴールにたどり着いた。爆豪にひっついてご満悦なゴローちゃんが流石に憎たらしく思えてくる。

ゴローちゃんゴローちゃんとうるさい幽姫に、爆豪は今日ばかりは心底鬱陶しく思えた。

二度目である。ずっと自分の後ろにいたはずの緑谷に、こうして負けたのは。此の期に及んで、こんなしょうもない話に付き合っている暇はない。大きく舌打ちして、爆豪は幽姫に背を向けた。

「爆豪くん、どこ行くの?」
「ついてくんなッ!」

いつものように幽姫が後を追おうとした気配を感じて、爆豪は声を荒げた。
幽姫はその怒声にピタリと足を止め、目を丸くした。そんな彼女をジロリと見遣って、爆豪は低い声で続けた。

「テメエらに付き合ってる暇ねえんだよ」
「……そっか」

幽姫がポツリと返したのを聞いて、今度こそ爆豪は一人で行ってしまった。なお追おうとしたゴローちゃんを引き止めると、ゴローちゃんは気に入らないというような不機嫌な感情を放ちながら、バシッと地面を尻尾で叩いた。

しばらくして一年生が全員ゴールし、結果発表となった。幽姫の順位は二十二位。爆豪の三位には遠く及ばない。

*  *

続けて二回戦の内容が発表された――騎馬戦。一回戦とは異なりチーム競技だ。
先の障害物競走の順位を元に、各選手にポイントが割り振られ、その合計値が騎馬の最初の持ち点となる。十五分間、得点を記載したハチマキを奪い合い、手にしたハチマキの合計得点の上位四組のみが、午後の本戦に出場できる。
一位の緑谷には一千万のポイント。そのハチマキさえ手に入れば、確実に二回戦を一位で通過できるということだ。

『それじゃあ、これより十五分間、チーム決めの交渉スタートよ!』

ミッドナイトが宣言したと同時に、大画面では早々にカウントダウンが始まった。

残った四十二名の生徒達は慌ててチームメイトを探し始めた。早々に目星をつけて誘いに行く者、とりあえず近くに立つ生徒に声をかける者。

――どうしよう。相手がいない。

幽姫はポツンと一人立ち尽くしていた。なんと言っても、高校に来るまで友人など一人もいなかった人生である。ぼっちにとって一番困るのが、自由にチームを組みなさい、という生徒の自主性を重んじるという建前の放任主義だった。

もちろん、組みたい相手がいないわけではない。そっと彼の様子を盗み見れば、すでに何人ものクラスメイトに囲まれていた。持ちポイントの高さと、汎用性のある個性は魅力なのだろう。幽姫にもよくわかっている。

その爆豪と、ふと目が合った。
相手はすっと目を細めて、不機嫌そうに眉を寄せる。それを見て、幽姫はふいと顔を背けた。

爆豪が不機嫌な顔をしているのはいつものことなのに、先ほどの睨む目を思い出せばどうにも彼の目が見られなかった。
まだ怒っているんだろうなぁ。付きまといすぎたんだなぁ。友達だって、鬱陶しかったんだろうなぁ。やっぱり、もっとちゃんと友達付き合いというものを勉強しておけばよかった。

ゴローちゃんは依然不機嫌そうだった。それでも爆豪から離れるように移動し始めた幽姫の隣に並ぶのは、ゴローちゃんも幽姫の感情をありありと受け取ることができるからだ。
珍しく、本気で落ち込んでいる。

――さて、本当に、入れてくれそうなチーム探さないと。

幽姫がやっと覚悟を決めた時、それを待っていたかのようなタイミングで、彼女に声をかけた人物がいた。

「君、A組の霊現さん……だったよね?相手がいないなら、うちのチームに入ってよ」



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