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ガイスト・ガール - 14



ついに雄英体育祭が始まった。
年に一度、三年間で三度だけ訪れる自己アピールのチャンス。今年はこれまでの色々な事情もあって例年より注目を受けている雄英高校――その直近の事件に関わった、1-A。今、確実に、日本で一番注目されているステージに、彼らは上がった。

盛大なブーイングを受けながら、平然と戻ってくるあたり爆豪らしい。幽姫が苦笑混じりに彼を見ていると、その爆豪が隣までやってきて足を止めた。
轟が緑谷に宣戦布告なるものをした控え室で一緒にいたのに、選手入場でさっさと先頭まで行ってしまったのを不思議に思っていたが、選手宣誓に選ばれていたからだったらしい。それが終わって当然のように隣に戻ってきてくれたことが、友人っぽいと幽姫は場違いにも嬉しくて笑った。

「さすがだね〜、爆豪くん」
「テメエも踏み台だこら」
「そっか〜」

あっさり笑う幽姫に気にした様子はなく、爆豪はむすっと黙り込んだ。このところ彼は少々大人しい。

一年生ステージの主審を務めるのは、18禁ヒーロー・ミッドナイト。彼女の口からすぐに第一種目が発表された。
障害物競走。長さ四キロメートルのコース上、いくつかの障害を乗り越えて上位に入った者達が第二種目に参加できる。ここで脱落することは許されない――二週間前に爆豪と交わした言葉を思い出した。幽姫は肩に乗る白い靄を見て、両手を握りしめた。

「頑張ろうね〜、ゴローちゃん!」

生徒達は一つのゲートに集められた。11クラス、総勢三百名近い人間が集まると、ゲートも随分小さく思える。これは出だしから大変そうだ。
爆豪の性格上当然のごとくゲートに一番近い位置を陣取ったものだから、相変わらず爆豪にお熱なゴローちゃんと共にその隣に立っている。ふと見上げた爆豪はいつもの粗暴さを何割か押し込めたように、静かな態度で三つ並ぶランプを見上げていた。

一つ目のランプが消えた時、爆豪が言った。

「ちんたらすんなよ、のろま」

その言葉に幽姫は目を瞬かせた。しかし同時に流れてきたゴローちゃんの感情に、くすりと笑う。幽姫も、同じことを思った。

「ちゃんとついて行くから、気にしないでね」
「はっ。すぐ振り切ってやんよ」

言いながら、ニヤリと不敵な笑みで幽姫を横目で見遣った。それをにっこり笑って見返してやると、爆豪はもう幽姫に見向きもしなかった。


スタートの合図が響き渡った。観客席から湧き上がる歓声。一様に駆け出した生徒達は、詰め込まれるようにゲートに押し入った。
後ろからの圧がすごい、と幽姫は早々に人混みに埋もれていた。もともと、身体能力はヒーロー科の中では平凡な部類だ。フィジカルの強い爆豪とは違う。

後ろから流れ込んできた者達を間に置いて、早々に爆豪と距離ができたことにゴローちゃんはご立腹だ。そのくらいは許してほしい。ゲートを抜けたら、ちゃんと――

足元に冷気を感じて、幽姫は咄嗟にゴローちゃんの名前を呟いた。ふわりと地面から足が離れたと同時に、背後から爆発的に吹き出した氷と冷たい空気の塊に背を押された。
地に足がついていないことで、その勢いに乗ってゲートから押し出された。周りでは同じように不意を突かれてゲート外に飛ばされた生徒達。そしてその間を器用に縫って、一瞬でひしめき合う集団から飛び出したのが、冷気の原因。

――うわ……凍らされるところだった!

地面を凍らせて後続を妨害しながら、轟が一歩先を走っていく。そのすぐ後を、爆豪や青山のように跳躍可能な個性持ちを始めとした生徒が数人追っていく。
幽姫もゴローちゃんに自身の体を浮かせてもらい、氷の上を跳ねるようにして妨害をものともせずに進んでいく。

やがて、障害物競走の最初の障害が現れた。

『まずは手始め――第一関門、ロボ・インフェルノ!!』

コース上に立ち塞がった、一から三の番号を持つロボット。そしてさらに控える五メートルもの巨大なそれ。見覚えがあった。

「入試の時の零ポイント敵じゃねえか!」
「多すぎて通れねえ!」

比較的小さな機体はともかくとして、半年前の入試では逃げるべき強大な敵として配置された、零ポイントの仮想敵。それが何体も阻む先に進まなければならない、と。随分粋な演出だなぁ、と幽姫は眉をひそめてロボットを見上げた。さてどうしよう。
先頭にいた轟は推薦入学者である。一般入試用の仮想敵を見たのはこれが初めてのはずだが……。

「わ……さすが……」

迷うような素振りもなく。右腕の一振りで、巨大なロボットをすっかり氷漬けにしてしまった。
動きの止まった仮想敵の下を抜いて、あっさり第一関門を突破していく。急激に冷えた霧があたりを覆った。さらに、不安定に凍ったロボットは自重に耐えきれず崩れ落ち、一転して土埃で視界が遮られる。後続の妨害まで考えての行動か、本当に流石すぎる。

ボンッと聞き慣れた爆音がして、つい癖で彼を目で追った。ロボットの前でまごつく集団の中から、爆豪が勢いよく上空に飛び出した。
――なるほど、下じゃなくて上から。

「ゴローちゃんっ」

もちろん、爆豪から引き離されるわけにはいかないゴローちゃんはすぐに反応した。
一歩遅れて、幽姫も飛び出した。同じことを考えたらしい瀬呂や常闇の姿もある。突然向かってきた爆豪に対して攻撃に出たらしい仮想敵だったが、その動きは巨体のせいで鈍い。

爆豪はもちろんそれを避けるし、伸ばされた腕を足場に、体勢が崩れた仮想敵の上をとるのはそう難しいことではなかった。

「お前、こういうの正面突破しそうな性格してんのに、避けんのな!」
「便乗させてもらうぞ」

爆豪は振り返って、すぐ後ろに三人も現れたことで一瞬眉を寄せた。

「なかなか振り切れないね〜」

幽姫がにっこり笑って言うと、珍しく嫌味なセリフだったからか、爆豪はチッと舌打ちを返した。



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