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ガイスト・ガール - 12



「何より、まだ戦いは終わってねえ――」

満身創痍、包帯でほとんど肌の見えない相澤だったが、臨時休校を挟んだ敵襲撃の翌々日、教壇に立ってこう言った。

「――雄英体育祭が迫ってる」
『くそ学校っぽいのきたあ――!!』

生徒達は歓喜に沸いた。

*  *

雄英高校は日本屈指のヒーロー輩出実績を持つ、最高峰のヒーロー科を有している。
その雄英高校が開催する、雄英体育祭。かつてのスポーツの祭典に変わり、超人社会のビッグイベント。将来有望な学生による、個性使用有りの総当たり戦。一般の観戦やテレビ中継も行われ、名のあるヒーロー事務所の人間もこぞって注目するその行事は、プロヒーローを志望する生徒達にとっては輝く未来を手に入れるための大事な場だ。

一昨日敵の襲撃を受けたばかりだったが、既にクラスメイト達の会話の中心は体育祭への期待に移っていた。

「……ゴローちゃんが、懐柔された……」

ただし爆豪の前の椅子を借りて、彼の机に突っ伏している女子生徒の話題は通常運転。ただし声はいつもより数段情けない。

「爆豪くん本当ずるいよ……」
「ああ?知るかボケ」

露骨に気落ちした様子の幽姫を見て、爆豪は呆れ顔で吐き捨てた。

「つーかこっちのが迷惑してんだよ。ペットの管理はちゃんとしろや。重いわ」
「だってどれだけ呼んでもこっち来てくれないんだもの……ゴローちゃん!……ほらぁ!」
「ほらじゃねえ」

一瞬顔を上げて愛猫の名を呼んだ幽姫の表情が必死すぎて、爆豪は軽く引いた。そして彼女はもう一度机に突っ伏す。

爆豪の膝の上の重さは、呼ばれても微動だにしなかった。これは、今朝幽姫が教室に登校して来てから、授業中も休み時間もずっと続いている見えない重さだ。そろそろ慣れて時折忘れそうになるが、幽霊に憑かれている人間というのはこうして霊の重さに慣れていくのだろうか。霊感があって重みを感じる人間は、幽姫曰くそういないらしいが。

「さっさと回収しろ。テメエらに付き合ってる暇ねえんだよ」
「私だって、今日一日ゴローちゃんを爆豪くんに取られて精神的にダメージなんだから……!」

幽姫曰く、ゴローちゃんはUSJで爆豪について行動した結果、以前よりさらに爆豪に懐いたらしい。
昨日の休日はゴローちゃんの様子も普段通りだったらしい。今朝爆豪の顔を見てすぐその膝に飛び乗ったゴローちゃんに、幽姫も相当驚いていた。そしてどれだけ名前を呼んでも爆豪から離れないことに愕然とする。

「どうして……ゴローちゃん、私の何が不満なの……不満がないなら一緒に帰ろうよお……ほら爆豪くんも帰りたいって言ってるじゃない……」

帰宅時間になって、さっきから幽姫はゴローちゃんの説得を続けている。このままでは爆豪がゴローちゃんをお持ち帰りしちゃう!ということらしい。言い方には一言言いたいが、爆豪の方も見えない幽霊を連れて帰るのはさすがに気味が悪い。
意思疎通を仲介できる、幽姫がいれば話は別だが。

「もうう……このままじゃ私まで爆豪くんの家に行くことになっちゃうよ」
「来んなよ電波女!」
「一晩ゴローちゃんと離れ離れなんて嫌だもの」

ちょうど思った通りのことを言われてしまったので、つい声を荒げてしまった。当たり前のことのように言われたのがまた腹立たしく、爆豪ははあっと大きなため息をついてみせた。

「付き合いきれるか!もう帰る!」
「あっ」

ついに我慢の限界がきた爆豪は、そう宣言してガタリと席を立った。
幽姫がパッと顔を上げて声を漏らしたが、どうせゴローちゃんが落ちちゃったとかそんなことだろう。幽霊に物理的な被害は出ようもないのだから、過保護も大概にしろってなものだ。

しかし帰宅を決意した爆豪は早々に第二の障壁に遭った。

「な、何事だー!?」

バリアフリーの背の高い扉を開いた麗日が驚いた声を上げる。1-A教室の前の廊下には、別のクラス、学科の生徒がひしめき合っていた。誰もが、やっと開いた教室の扉から中を覗こうと興味津々な様子を見せる。

「君達!A組に何か用が?」
「なんだよ出れねーじゃん!何しに来たんだよ!」

真面目な飯田と小柄な峰田がその集団に言う。爆豪はふんと鼻を鳴らした。体育祭の開催が発表された今、彼らの目的など知れている。そんなこともわからないのか、と。

「敵情視察だろ、雑魚。敵の襲撃を耐え抜いた連中だもんな……体育祭の前に見ておきてーんだろ」

唐突かつ当然のように雑魚と称され唖然とする峰田と、それを頑張ってフォローする緑谷などは既に眼中にない。
教室と廊下の境に立って、いつも通り不遜な態度で集団を見据える爆豪に、すぐ目の前にいた生徒達がたじろぐ。

「そんなことしたって意味ねーから。どけ、モブども」

爆豪の通常運転であった。

その発言に触発されたらしい、集団を押しのけて前に出てきたのは普通科の男子生徒。無表情ながら鋭い視線で1-Aの面々に向けて、彼曰くの“宣戦布告”をしてみせた。
さらに集団の向こうから、やたらでかい粗野な声で怒鳴って来たのはヒーロー科1-Bの生徒らしい。どちらも爆豪に劣らずの大胆不敵な性格だ、と周囲の人間は思ったが、爆豪自身は珍しく食ってかかることもせず、無視して廊下を歩き始めた。

「待てこら、爆豪!どうしてくれんだ。お前のせいで、ヘイト集まりまくってんじゃねーか」

切島が慌てた風に出て来たので、爆豪は足を止めた。これだから。

「関係ねぇよ。上にあがりゃ、関係ねえ」

誰も寄せ付けない。モブどものヘイトなど束になったところで、自分の道を遮ることなどありはしない。
爆豪は簡潔に言い置いて、今度こそ集団の中を突っ切って行った。モブらしく進路を譲るのは正しい判断だ。

「あっ爆豪くん待って、一緒に帰ろ!」

幽姫が慌てて教室を出て来たので、爆豪は視線だけそちらにやった。どうやらゴローちゃんは爆豪の後をついて来ているらしい。

普段は別段意識して一緒に帰ることもないのだが、そうとは知らない集団の中には幽姫を見てヒソヒソ言い合う者がいた。女子だ、あの性格でリア充かよ、腹立つ、といった言葉がボソボソ聞こえてくる。
めんどくせえ、と爆豪は軽く思ったが、何も言わずに前を向きなおった。

幽姫が駆け足で隣に並んだのもあるし、わざわざ否定しなくてもいいかと、なんとなくそう思ったのもある。



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