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ガイスト・ガール - 08



ふ、と吐いた息が白く曇った。轟焦凍は足元から半身以上氷漬けにされた敵の集団を睨み、ずる、と身動ぐ音を聞いて振り向いた。

「目ェ覚めたか」
「寝てなかったけど……ごめん轟くん、迷惑かけた……」

普段より幾分弱々しい声だが、先ほどよりは落ち着いた様子で起き上がった幽姫は軽く頭を振った。

黒い霧の敵に散り散りにワープさせられた先、彼らの場合は土砂災害を想定した土砂ゾーンだった。周りにはやっと獲物が来たとニヤニヤ笑う十数の敵、同じく飛ばされてきたらしい幽姫が隣で倒れ込んでいる以上、一人で対応するしかないかと轟はすぐ把握した。さっき爆豪に支えられるようにしていた彼女の姿は見ていたし。
轟一人ですぐさま制圧できるようなレベルの敵しかいなかったのは幸いか。それとも、敵連合というのはほとんど、生徒相手に用意されただけの寄せ集めの雑魚なのか。

「うらぁ!」

おそらく後者だ。岩陰から飛び出した一人、その隙をついたつもりだろう背後からもう一人。右の足と手で、また一瞬にして氷で覆った。

「……なあ。このままじゃあんたら、じわじわと身体が壊死していくわけなんだが……俺もヒーロー志望、そんな酷ぇことはなるべく避けたい」

この程度の者を集めて、オールマイトを殺すと豪語するのか。それならば何らかの決定打があるはず。轟は目の前で氷に覆われ、唯一空気に晒されている表情を引きつらせている敵に右手を伸ばした。

「あのオールマイトを殺れるっつー根拠……策ってなんだ?」

ヒッと喉を震わせる敵はすでに涙目である。すぐに口を割りそうだ、と思ったら、後ろで氷を踏む足音がした。

「轟くん」
「……体調不良の奴はひっこんでろ」
「もう大丈夫だよ」

へらりと笑って見せる幽姫はそう言うが、顔色はやはりいつもより悪い。
もともと赤みの差さない肌には不健康さを感じていたものの、それ以上に血の気の引いた彼女は、氷に覆われたこの場では肩を出すデザインのコスチュームのせいで寒そうでもある。

「それより、みんなのところに行かなくちゃ」
「待て、情報収集はしておく」
「いい、その人達は多分ほとんど知らないから」

幽姫は断定した口調ではっきりと言った。一体どういう根拠で、と轟は眉を寄せる。さっきまで敵連合の前に何もできず倒れ込んでいただけの奴が。
幽姫から視線を外し、氷漬けの敵に目を戻す。

「どうなんだ。壊死する前に教えな」
「ぐ、た、確かに……そいつの言う通りだ。主犯の奴らが、オールマイトを殺すと……俺達は生徒に邪魔をさせないよう、暴れろとだけ……本当だ!」

顔に向けられた右手に冷気がまとわれたのを見て、男は悲鳴じみた声をあげた。どうやら誤魔化そうとしている風ではない。轟は一旦納得して、手を下ろした。

「だとすると、これ以上聞いても無駄だな」
「……策は、なんとなくわかるよ」
「なんだと?」

幽姫の言葉に轟はまた不審な顔をする。

「主犯格は、おそらく中心にいた三人のこと。ワープの個性は輸送役だし、リーダーはたくさん手をくっつけた男。オールマイトを封じれるのは……怪物」

最後の台詞を言う時、心底憎悪に満ちた表情をした。轟は驚いて目を瞠り、霊現、と名前を呼ぶ。するとハッとしたように肩を震わせて、ああごめん、と首を振った。

「とにかく、その三人が本当にやばい……相澤先生達だけで相手取れるとも思えないの。援護しなきゃ……」
「お前、そんなこと、いつわかった?」

轟が尋ねると、幽姫は青ざめた顔で困った風に微笑んだ。

「轟くんは信じないって言ったけど……私の個性、“霊媒”は、幽霊と交信する個性。ポルターガイストはその副産物みたいなもので――純粋な能力としては、『すべての幽霊と感情・記憶を共有できる』ってことなの」

だから、と幽姫は続けた。轟にも、氷漬けにされた敵にも見えない何かを見渡すように、空を見回して。

「――さっきまで、敵達について現れた幽霊達の記憶を見ていたの。とても多くて、恐ろしくて、荒々しすぎて、頭がパンクしそうだけどね」

だから情報は、ある程度持ち合わせてるよ。

*  *

「――これで全部か……?弱ぇな!」

倒壊ゾーンの中、ひび割れた廃ビルを模したその一室で、爆豪は余裕ぶって言った。実際まだ余裕は十分にある。
切島と共に飛ばされたその場で、次々と襲いかかってくる敵を片っ端から爆破し続けた。やっとそこに立つ二人は肩で息をする程度には疲弊したものの、目立った怪我も負ってはいない。

「よし、早くみんなを助けに行こうぜ!俺らがここにいることからしてみんなUSJ内にいるだろうし、攻撃手段の少ない奴が心配だ」

切島の提案を受けて、爆豪は数瞬考えてから答えた。

「行きてえなら一人で行け。俺はあのワープゲートをぶっ殺す」
「はあ!?この期に及んでそんなガキみてーな……霊現だって、フラフラだったのお前見てたろ!」

切島が口にした名前を聞いて、頭の片隅にちらっと青い顔をした幽姫の姿が思い出された。敵連合が現れたと同時だ、彼女が突然頭痛を訴えたのは。今もどこか、おそらく自分達と同じように敵の集団に襲われているはず。しかし。

「それに、あいつに攻撃は――」
「うっせえ!」

切島の言葉を遮って怒鳴りつけた。ワープの個性は残しておくと一番厄介だろう。いくら追い詰めたところで、逃げられてはどうしようもない。先ほどの攻撃で、一つ相手の弱点は見えたつもりだ。であれば、自分がそれに一矢報いるのが道理である。

「――ペチャクチャ駄弁りやがって!その油断が……」
「――つーか、俺らに当てられたのがこんな三下なら、大概大丈夫だろ」
「すげー反応速度……」

敵はすべて倒れたと思っていたが、隠れていた奴が一人いたらしい。後ろから隙をついたつもりのそれを難なく爆破して、今度こそ爆豪はその場を制した。

この程度の敵、まだ入学したばかりの一年生といえど、すぐにやられることはない。そう、あの幽霊女だって。

「そんな冷静な感じだったっけ?お前」
「俺はいつでも冷静だクソ髪野郎!!」

心外だと噛み付けば、あーそっちだ、と指さされた。爆豪はふんと鼻を鳴らし、ボロ雑巾と化した敵をぽいと捨てて歩き出した。

「じゃーな、行っちまえ!」
「待て待て!友達を信じる、男らしいぜ、爆豪!乗ったぜお前に」

ニッと笑って、切島は両の拳を合わせた。
その切島の肩に、二人には見えていない猫が飛び上がった。



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