なんだかよく分からない事が起きている。ケーキバイキングにわたしは荒井に頼み込んで来たんだが、見た目は荒井が美味しそうにケーキを一人で食べてるんだよ。そんな事気にせずにわたしは荒井と入れ替わってわたしの意識でケーキを食べていた。荒井は寝ている。一人黙々と食べていたら立海大の制服を来た生徒が目の前にいました。これどんな状況?
「お前さぁ、青学の荒井だろ?」
「え…と、どちら様ですか?」
唐突に投げ掛けられた疑問に答えず、名前を聞こうと首を傾げた。というか、なんで荒井の名前を知ってるのかな。目の前の彼は赤い髪の毛が特徴的で、最近どこかで見た気がする。荒井に聞こうにも今寝てるし。どうしようか下手な事言えないよこれ。荒井起きてくれないかな。手元では食べようとケーキを刺して中途半端に持ち上げたフォークが行き場を無くしている。彼はわたしの問い掛けに吃驚したのか、覚えてねえの? と逆に聞いてきた。覚えて無いから聞いたんだよと言う前に彼が名乗った。
「俺、立海の丸井ブン太」
「……ああ、ダブルスの」
記憶を掘り起こして目の前の人物が全国の試合で黄金ペアと戦った相手だと思い出した。行き場を無くしていたケーキを食べてそういえば、と丸井さんに聞いた。
「その丸井さんがなんで俺を知ってるんですか」
「んー? まあ気にするな。それより俺もこっちで食べて良い? 一人って意外と虚しいよな」
そう言って丸井さんはケーキを乗せた皿をわたしの座っているテーブルに持って来た。まだ許可して無いんだけど。呆然としていると早く食べようぜ、とこっちの気持ちなんて無視でケーキを食べていた。一皿に盛りすぎじゃありませんかそれは。
「俺としては気にします。あと、一緒に食べるとは言っていません」
「その顔でケーキバイキングって浮くよな」
なんてスルースキル。こっちの疑問は一つも答えず流すなんて。どこら辺の質問から答えてくれるんだろうか。ちょっと悩みながらケーキを食べる。丸井さんも食べる。食べる。ある程度食べていれば相手のケーキの傾向が分かるんだけど、丸井さんは全種類満遍なく食べている。丸井さんはわたしの皿を見て、自分の手元の皿からひとつのケーキを指した。
「荒井、このケーキ美味いぜ」
そのケーキはまだわたしが食べていないもので、よく見ているなと感心した。丸井さんは一口大にしたケーキをフォークに刺して目の前に持って来た。わたしは少し迷ってそのまま食べた。丸井さんは特に気にしていないようで、美味いか? と首を傾げて聞いてきた。
「美味しいです」
「そりゃ良かった」
「丸井さんは誰彼構わずさっきみたいにやるんですか?」
「あ? あー、わりぃ、いつもの癖。小さい弟がいるからな、よくやるんだよ。だけど荒井も躊躇わないで食べたよな」
「俺も癖です」
癖なんかじゃ無いが、上手い言い訳が思い付かなかったからそう言えば丸井さんは納得してくれたようで、うんうんと頷いていた。丸井さんはそういえばさあ、と言った。
「敬語やめねぇ? 丸井さんじゃなくてブン太で良いし。その変わり名前教えて」
「一応先輩ですよね。あと敬語無くしたら口が悪いですが? 名前は荒井です。知ってるじゃないですか。何を今更」
「別に構わねぇよ。同じ学校じゃねぇだろ? てか名字じゃないし。下の名前教えろよ」
「じゃあお言葉に甘えますが。名前は将史」
「ふーん。将史か。アド交換しようぜ。ほれ、赤外線」
そう言ってブン太は携帯を差し出したからわたしも携帯を出した。変な所で奇妙な繋がりが出来たな。赤外線が終わったのを見計らい荷物をまとめる。
「じゃ、俺は帰る」
「え、将史帰んの?」
「先に来たからな。もう一時間以上いるし充分食べた。ブン太はもう少し食べてろよ」
いつでもメールして良いから、そう言って席を立てばブン太は名残惜しげにまたな、と手を振ってきた。それにまたな、と手を振って会計レジへ向かった。
(荒井、起きて。食べ終わった)
(………起きてた)
(あれ、どこら辺から?)
(赤髪にケーキもらってる辺り)
(赤髪じゃなくて丸井ブン太ね。お友達ゲットだよ、しかも立海だ)
(……………)
(荒井?)
(俺の事も将史って呼べよ)
ちょっと吃驚した。そういえばわたしはずっと荒井と呼んでいたなぁ。しかし将史は可愛いねぇ、嫉妬なんて。
(将史、帰ろうか)
(おう)
将史と呼んだ時の嬉しそうな声音ににやにやと笑う。こうやって中学生らしく一喜一憂する将史がわたしは本当に大好きだ!