novel


▼ 星空の下で



『ん…』




夜もすっかりふけて皆が寝静まった頃、もぞもぞと寝返りを打つ。




『…だめだ、眠れない。』




今日昼寝をしてしまったせいか、中々寝付けずにむくりと体を起こした。




少し外の空気でも吸ってこようかな…。




そう思い、音を立てずにゆっくりとドアを開けて静かに外へと出た。







『うぅ〜…意外と外寒い…』




さっきまでぬくぬくとベッドに入っていたので余計夜風が肌寒く感じる。



上着着てくればよかったな。





宿屋からほんの少し離れ、ふさふさした草の上に腰掛ける。





『うわぁ…星が綺麗…』




ふと見上げた空には、満天の星がキラキラと輝きを放っていた。





「玲香ちゃん」




不意に聞き覚えのある声で名前を呼ばれ、びっくりして振り返る。





『リュカ…!』


「ふふ、こんばんは。隣、座ってもいいかな?」


『こ、こんばんは…。うん、どうぞどうぞ!』




微笑みながらありがとう、と私の隣に腰掛けるリュカ。






『リュカ、こんな夜中にどうしたの?』


「それはこっちの台詞。玲香ちゃんこそこんな夜中に一人で外に出てダメじゃないか。」





しまった、自分で墓穴掘っちゃったとか考えていたらリュカは割と真剣に注意しているようだった。




「魔物だっていつ出るか分からないし、野生の動物もいるんだよ?」


『ご、ごめんなさい…』





私がしゅんとしながら素直に謝るとリュカはふわりと微笑んだ。





「分かればよろしい。…あはは、なんちゃって。別にいいよ。眠れなかったんだろう?」



『えっ?!からかってたの?!もう…怒ってるのかと思ったよー。』


「ふふ、ごめんごめん。でもまぁ女の子一人だけでこんな夜更けに外へ出るのは感心しないな。次からは僕も連れてくこと。いいね?」




そう言って私の頭を優しく撫でてくれる心地良さにつられるようにして頷いた。




『あ、そういえば何でリュカは私が眠れなくてここに来たこと分かったの?』


「隣の部屋の扉が開く音がしたからね。玲香ちゃん、こんな夜中にどこへ行くつもりなんだろうって思ってついて来たんだ。」




あ、そっか。
そういえば隣の部屋はリュカだったな。




「玲香ちゃん、今日お昼寝してたみたいだったから多分中々寝付けなかったんだろうなって。」



『なるほど。リュカには全部お見通しだね。』


「そんなことないよ。……わぁ見て玲香ちゃん、星が凄く綺麗だよ。」


『ね!私もさっき見てて綺麗だなって思ったんだー………っくしゅん!』





少し夜風に当たりすぎたのか、思わずくしゃみが出てしまった。



「大丈夫?夜は冷えるからね。はい、これ…」





ふわりと包み込んだのはブランケットだった。



「玲香ちゃん、寝る時のその薄着のまま外に出ようとしてたから一応持って来てたんだ。」




リュカ、そんなとこまで気遣って…。
全然気付かなかった。




『あったかい…』


「ならよかった。持って来た甲斐があったよ。」




そう言って微笑んでくれるリュカも、いつものターバン等を外していて寒そうだ。




『リュカも入ろ?寒いでしょ。』


「僕は大丈夫だよ。二人で入ったら結構狭くなっちゃうしね。」


『そんなこと言わずにほら。二人の方がもっとあったかくなれるし!』



そう片手でブランケットをリュカの方へ広げ入り口を作る。





「ふふ、ありがとう。じゃあお言葉に甘えようかな。」




そうしてリュカも私と一緒にブランケットに包まれる形になった。


案外くっつくなこれ…。
自分から誘っといたくせになんだけど、ちょっと恥ずかしくなってきたぞ…!




「どうかしたの?顔が赤いけど…」




一人でわたわたしているとリュカが心配そうに顔を覗き込んできた。


ち、近い近い近い!



いや…でも待てよ。
なんかリュカって…





『何かさ…リュカってお父さんみたいだよね』








はい?






『だってさ、さっきみたいに注意してくれたり、素直に謝ったら優しく頭撫でてくれたり、ブランケットをあらかじめ持ってきてくれてたり……なんかこう見守るパパ!みたいな!』




「え、えーっと…それは褒め言葉として受け取っていいのかな?」


『もちろん!』



あ、でもさっきの条件からするとお母さんでもあながち間違いではないしな…。





「うーん…お父さんかぁ…」




私が一人で色々考えているとリュカがぽつりと呟いた。


あれ?やっぱお母さんの方がよかったかな。





「お父さんみたいに玲香ちゃんを見守るのも捨てがたいんだけど、もっと他の立場から見守りたいかな。」


『え?じゃあやっぱりリュカはお母さ──』






“やっぱりリュカはお母さんの方がいい?”って聞こうとしたけど無理だった。



言おうとしたその唇が、リュカの唇で塞がれてしまったからだ。







「お父さんは娘にこんなこと、しないだろ?」






静かに唇を離し、もう一度キスができてしまいそうなくらいの至近距離で少しいたずらっ子のように微笑むリュカ。



私は突然の出来事に、顔を真っ赤にさせて口をパクパクとさせることしかできなかった。





「玲香ちゃん、顔真っ赤だよ。」


『うぅ…』




なんだか、今日のリュカは少し意地悪だ。





「さてと…そろそろ宿屋に戻ろうか。明日も早いしね。」






そう言って立ち上がったリュカの服の裾を掴んだ。





「玲香ちゃん?」






私は少し背伸びをして思い切ってリュカの頬にキスをした。


なんだか自分だけドキドキさせられっぱなしで悔しかったのと、


私だってリュカを、誰よりも近くで見守りたいっていう想いが強まったからだ。






リュカは少し驚いた表情をしていたが、すぐにふわりと笑みを浮かべ、いつものように優しく頭を撫でてくれた。




その優しくて不思議な瞳はまるで、

よくできました、と伝えているようだった。





『(やっぱり…リュカにはかなわないなぁ…)』






そう、星空の下で密かに思うのだった。






END






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