▼ こっちの身にもなってくれ
「うー…あちぃー…」
雲一つない青い空に、眩しい太陽がジリジリと照りつけている今、レントがパタパタと手をうちわがわりに扇ぎながら呟いた。
『ほんとだねー…』
ジッとしているだけでこんなに暑いのだから、先程まで熱心に剣の稽古をしていたレントにとっては地獄のような暑さだろう。
ていうかその服装全然素肌が見えないんだけど大丈夫なの?
首元とかがっつりマフラー以上のぬくもりがありそうなんだけど。
「なんとかならねーかなこの暑さ…これじゃあ戦いもできねぇよ」
『………あっ!』
「ん?どした?」
暑そうなレントを見つめているとふとあることを思い出した。
『レント、いいとこ連れてってあげる。ついて来て!』
「あー?いいとこぉ?こんな暑いのに動きたくねーっつのー…。」
だらぁーっと座り込んで動こうとしないレントの腕を無理矢理引っ張り、起き上がらせた。
『いいから!ほら行くよ』
「お、おい!」
手を掴んだままズンズンと目的地まで歩いて行く。
***
さっきいた場所からしばらく歩き、森の少し奥まで来た。
「おいー…一体どこまで行くつもりだよ。もう結構歩いたぜ?」
えーと…確かこの辺だったんだけど…
『あっ、あったあった。レント、ここだよ!』
そう言いながらレントから離れ、小走りで木の間を通る。
「ちょっ待てって。……ってなんだこの湖!すげぇでかい!」
『ふふふ』
目の前いっぱいに広がる大きくて綺麗な湖に驚いているレントに、でしょ?というように笑う。
「森の奥にこんな湖があるなんてな!玲香いつの間に見つけたんだよ。」
『この前、一人で薪を取りに行った時たまたま見つけたんだ!森の中で日差しが遮られてるから涼むのにはピッタリな場所だと思って。』
「へぇ、お前すげぇな!あ、でも一人でこんな森の奥まで行くのは危ないから今度からは俺を誘えよ?にしてもいい場所見つけたな!」
そう言ってレントは湖に手をつけた。
さりげなく心配してくれたのも嬉しかったり…する。
『…………あのー。レントさん?』
「なんだ?」
『いや、どうして服脱ぎ始めちゃってるんです?』
そう、目の前で繰り広げられてるこの光景は一体なんなのだ。
なぜ先ほどまで手だけ湖につけていたのに上を脱いで湖に浸かっているのか。
「いや、どうしてって…見て分かんねぇ?汗かいたから水浴びしてんだよ。」
そんなあっけらかんと……
『もう!!目の前にレディがいるってのに何普通に上半身裸で水浴びしてるの!!』
恥ずかしいったらありゃしない。
目のやり場に困る……って私は変態か。
「はぁ?レディ?そんなもんどこにいんだよ?見当たらないなー」
わざとらしく手をかざしてキョロキョロするレントにイラっときてズンズンとそのままレントに近付いた。
『ここにいるでしょうがこ・こ・に!お前の目は節穴かっ。』
ペシッと軽くレントの頭を叩いた。
するとレントがその腕を引っ張り、
『きゃっ!』
バシャーーンッ!
見事湖に落ちました。
「あっはははは!だっせぇー玲香!はははっ!」
『……レ・ン・ト〜?』
「あははっ悪かったって、ぷっ…くくっ」
いつまでも笑っているレントに、私は
バシャッ!!
「ぅわっ!?おい!何すんだよ!」
『私を湖に落っことした挙げ句笑ったお返し!』
バシャッ!!
「ちょっ、やめろって!こうなったら俺も!」
バシャッ!!!
『うわぁっ!あーあ、もうすっかりビショビショだよ。』
そう言って濡れた服の裾を絞った。
『もう…レントのせいだからね!……ってあれ?レント?』
「……。」
『おーい?レントー?』
「はっ?!あ、いや、ちょっ、えっと、」
口をポカンと開けて固まっていたレントが今度は顔を真っ赤にしてあたふたし出した。
一体どうしたというのだ。
『?レントどうしたの?』
不思議に思い少しレントに近付いた。
「い、いや!?なんでもない!なんでもないからこっち来んな!おっお前はとりあえず後ろ向け後ろ!」
『はぁ?後ろ?これでいい?』
言われた通り後ろを向いた。
「お、おう。それでい…ってよくない!全然よくなかった!!」
『…レントどうかしたの?何か変だよ…』
そう言ってレントの方を向いた瞬間、
『んっ……ちょ、レン、……ふ、』
何度も重ねられる唇に、完全に思考が持って行かれそうになる。
待って。
待ってくれ。
今の状況はなんだ?
私今レントに…き、キ……s言えるか!
『…、ぷはっ…』
「………悪い」
しばらくしてレントが少し私から離れ、短く謝った。
『…な、なんでこんなことしたの…?』
やっと口から出たのがまずそれだった。
「お、お前が…その、ふ、服透けてんだよ!全身濡れてっから!それで…その、俺だって男だし………ほんと、悪かった。」
真っ赤になって逆ギレされたかと思ったら急にしゅん…となって素直に謝るレント。
いつになくらしくない彼を目の前に、私も何とも言えない気持ちになった。
『別に…いいよ…。』
レント「は?」
『……別にいいって言ってるの!レントなら!』
恥ずかしくなってレントに大きな声で言ってやった。
顔が熱い…。
ほんと…こんな恥ずかしいこと言わせるのも、せっかく水浴びしたってのに熱くなってる体も、尋常じゃないくらいドキドキと脈打つ心臓も、
全部レントのせいなんだから。
「(ったく…こんな真っ赤な顔して必死に恥ずかしいことを大声で言ってくれやがって…。)」
「ほんと、こっちの身にもなれよな…」
そう呟いて、レントは玲香の背中に腕を回した。
END
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