その頬に触れたのは 1/2



「やっぱこの辺りはのどかだねー。敵も弱いし」


そう呟いた私を見て、エイトが苦笑する。
一行が今いるのはトラペッタ周辺。
それはもうのどかだ。のどか過ぎるくらいに。
このままここにいたら平和ボケしそうだなあと思うくらいにのど……しつこいか。

何故一行が今こんなところにいるかといえば、まあ、
『ラプソーン倒す前に世界巡っとくか!』
というあれだ。
みんなもやるよね!!

しかし実際来てみると特にすることもなく。
一行はぼんやりと道を歩いていく。

……と。


「あれ?」

「どうしたの名前」

「あの木、なんかありそう」

「……?何かあるようには見えないけど」


エイトが私の指を差した方向を見て首を傾げる。


「何言ってるの!!何もなさそうな所に何かがある!変に神経質になる!それがドラクエっていうゲームで「ゲーム発言はこの小説のリアリティを奪うからやめようね?」……すみませんでした」


熱弁しかけたが、エイトがにっこりと……それはもうにっこりと笑いかけてきて止まる。

エイトさん。目が笑ってません。怖いです。

エイトが笑うと90%の確率でどす黒いオーラが出「ん?どうしたの名前」

「いえ何でもございません」


…………。
……て、こんなことしてる場合じゃなかった。


「とりあえず私、ちょっと見てくる」


そういって私は木の方へ向かう。


その時。


「名前、危ない!!」


エイトの叫び声と同時に、横から何かが勢いよく飛び出し、次いで頬に変に柔らかい物が当たる感触がした。
力は弱く少しよろけた程度で済んだが、一体何が体当たりしてきたのか。
スライムにしては生暖か……。


「………………。」


私は横を向いて絶句した。

そこにいたのは芋虫の体に大きなぎょろりとした目。そして何より大きすぎる唇をもったモンスター。


「……………………。」


――……リップス。

つまり、私の頬に触れた感触はあのリップスの唇……。


「………………。」


いや、もうね。
上手く言葉が見つからない。
いつも気持ち悪過ぎて近付いて切るとかせずに魔法や弓頼りで倒してたようなモンスターに頬チュー……。
リップスに頬チューされたくらい……と思うかもしれない。
しかしこれは想像以上にダメージが大きい。
……精神的に。


「何ボサッとしてるの名前!!」


ゼシカの鋭い声と共に火の玉がリップスに命中し、リップスが消滅する。

……かと思いきや横から何か液体が降ってきた。


「……ぎゃっ!?」


その冷たさについ女とは思えない叫び声を上げてしまう。


「何するの!!」


叫びながら液体が降ってきた方を見ると、そこには小さなビンを持ったエイトが立っている。


「って、何コレ、聖水!?」

「うん消毒」

「そっか消毒か……いやいや、用途間違ってるでしょ」

「似たようなもんだよ。浄化だよ浄化」

「何か違うような」

「まあ取り敢えず洗い流せればそれでいいよ」

「そんな適当な理由で聖水使うの!?」


エイトは私のツッコミを気にした様子も無く、いつもつけているバンダナを外し、私の濡れた顔を拭きだした。
その行動に驚き、いきなり顔に触れられて気恥ずかしくなる。
しかも……。


「……?!エイト、バンダナ……!」
「このバンダナが嫌なの?ならヤンガスのステテコパ……」

「それだけは勘弁して下さい。でもそのバンダナ、エイトの大切な……」

「今はそんなのどうでもいいよ」

エイトは私の顔を丁寧に拭くと、私の手を引いて馬車の方へと歩き出す。


「ヤンガス、くちぶえ吹いて」

「?いきなりどうしやした兄貴」

「そんなのどうでもいいからさ」


エイトがヤンガスににこりと笑いかけ、ヤンガスは引き攣った笑みを浮かべている。


「ちょ、ちょっと待って、エイトなんでこんな所で?」


流石にヤンガスが可哀相になり、私はエイトに声をかける。


「こんなところでモンスター出したって経験値あんまり貰えな……「だから話のリアリティを無くす発言はやめようね」……大して強くなれないよ?」


エイトに笑みを向けられ、かなりビビりながら言う。

するとエイトは一つ溜め息をついた。


  




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