君の為の輝き 1/1
「ただいまー」
「あ、おかえ……」
「…ん?何名前」
外から帰ってきたアレフを見て一瞬目を疑った。
いや、だって…アレフが腕に一杯抱えてるのって…真ん丸とした赤い宝石だよ?それも沢山。
本人はキョトンと驚いてる私を見てるけど自分の状態に疑問を持たないのかな、目の前の勇者さんは。
「……何処から盗んできたの?」
「第一声がそれって結構酷いね…盗んだんじゃなくて魔物を倒した時に落としたものだよ。捨てるの勿体ないから全部持って帰ってきただけ」
「あ、そうなんだ…てっきり犯罪に手が染めたのかと」
「まぁこれだけの量は疑われて仕方ないか…」
苦笑気味に机の上に大量の赤い宝石を置いた。
うわ…こうやって見ると多いな…
一個だけ手に取ってみて灯に照らしてみる。ステンドグラスみたいに透き通った赤い輝きを放ってる。
ルビーよりも色が濃いけど、ルビーに負けない位綺麗だ。
「なんて宝石?」
「アルゴンハートだってさ、昨日エイトから聞いた」
「ふーん…何でまたこんなに取ってきたの?」
「ちょっとね…」
…そんな含みのある言い方されると気になる。
まさかこれ全部質屋に売る為に魔物と戦ってたんじゃないよね?
そこまで財政難だったっけ?
「実はその宝石、どっかの城では婚約指輪として使われるんだってさ」
「婚約指輪?」
「うん、一人前になる試練も兼ねてるみたいだよ。宝石が大きければ大きい程実力が認められるって」
「へぇ…」
こんな綺麗な宝石が婚約指輪か…
…で、それとアレフが取ってきたのとどう関係があるんだろ。
指輪…指輪……
「…あ、分かった!ローラ姫にあげるんでしょ?」
「Σぶっ…ち、違うよ!何でそこでローラ姫が出て来るんだよ!」
「え、違うの?アレフの事だから指輪にしてあげるのかと思ったんだけど」
「合ってるけど相手は全然違う!」
そんなきっぱりと否定しなくても…
「分かんないかな…わざわざ名前に見せて尚且つ意味深に説明してるのに」
「え?だから、誰かにあげたいんでしょ?」
「はぁ…」
…え、何でアレフ落胆してるの?
益々意味が分からなくなってきた。
「……それ、全部名前の為に取ってきたものだよ」
………へ?
「…わ、私?」
「さっきからずっとそのつもりで言ってたんだけど」
「……じょ、冗談だよね?」
「流石の僕でも冗談で婚約指輪に使われてる宝石なんか取りに行かない」
う、嘘…これ、全部私の為に…?アレフが?
…信じられない。アレフはいつも冗談か本気か分からないスキンシップしてくるし…それで結構皆に注意されてるのに。
でも本人は真面目な表情で私を見ている……てことは、本当?
「……こんなに沢山あるのは?」
「折角名前にあげるなら大きいアルゴンハートの方が良いかと思って。……結局見つからなかったけど」
それでこんな量なんだ…
……ど、どうしよう。アレフの顔を直視出来ない。
だって考えても見てよ?何処かの城で婚約指輪として使われてる宝石を、私にあげる為に取ってきたって言うんだよ?
これって暗に…
「……」
「やっと理解してくれた?」
「…なんか、こういうの……ずるい」
「そう?僕としては名前の鈍感さの方がずるいと思う」
「な、何で?」
「だってハッキリ言わないと気付いてくれないから。…まぁその方が落とし甲斐があるけど」
「お……落とす……!?」
「…言っとくけど殺人的な意味の落とすじゃないからね?」
ジョ、ジョークだってば…この場の空気に堪えられないから紛らわせようと…
…無理だったみたい。
「さて、理解して貰った上で聞くよ?アルゴンハート…受け取ってくれますか?」
沢山あるアルゴンハートの中比較的大きい物を取り上げて私に差し出してくる。…よく見たらアレフも若干顔が赤い。
もうこれ…決定打過ぎる表情じゃんか…
「…ほんと、アレフはずるい…」
アレフより真っ赤であろう顔を俯かせて、私は彼の手と重なる様にアルゴンハートに触れた。