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第32章




***



とりあえず最初の授業が終わり、休憩時間になる。授業といっても転入初日の私たちに合わせてくれたのか、ほとんどは学院内のことや授業内容のことの説明ばかりだった。


…にしても。




「ねぇアレフくん!よかったら学院の中案内してあげるよ〜。」

「あっずるーい!私も!」

「せっかくだしエイトくんとナインくんも行きましょうよ!」

「ねぇあんたソロくんに話し掛けてみなさいよ!」

「む、無理だって…!恥ずかしくて行けない…!」





サリー「あら〜すごい人気ねぇ…。」

『本当に…。』


サリーが頬に手を添え、皆に群がる女の子たちの様子を眺めながら呟く。
見事に勇者達の席の周りは女の子たちで溢れかえり、ここからではあまり様子が見えない。
とにかく凄いことになってるっていうのは事実だ。


サリー「まぁあれだけかっこいい子たちばかりが何人も転入してきたんだもの。そりゃあこうなっちゃうわよねぇ…」

『サリーは行かないの?』

サリー「うふふっ、やだぁ。私男の子にはあんまり興味ないのよねぇ。考えが子供なのかしら?」

『そんなことないよ。でも珍しいと言えば珍しいね。』


もう一度女の子たちに目を向けてみるが、一向に人数が減りそうにない。
ソロなんて話しかけるなオーラでも出しているのか、女の子たちは揃って席から一歩下がった状態で遠慮がちに見つめている。

アルスは慣れてないのか、わたわたして困っている様子が読み取れる。そこもまた可愛いと女の子からの好感度はうなぎ登りのようだ。


そんな皆の様子を見て、小さくため息をついた。
ヤキモチなんて妬けるような立場じゃないけど、なんだか仲良しの友達が突然遠くに行ってしまったような妙な寂しさを感じる。



「…おい、お前から行けよ」
「は、はぁ?嫌だよお前が行けよ」
「声掛けるだけだろ」
「やだ俺そんな勇気ねぇ!」
「アホ!女子はあいつらに普通に話し掛けてんぞ!」
「そうだよそれでも男か!」
「誰でもいいから早く話せって…!後ろ詰まってんだぞ!」
「おいバカ押すな!!」




サリー「…ミキ、お客さんよ。」

『え?』


サリーの指差す方向を見ると、いつの間に集まったのかクラスの男の子たちが固まっていた。
な、何なんだあの集団は…。
コソコソと話したり背中を押し合ったりしているその光景は正直言って不気味である。

私の視線に気付いたのか、一人の男の子が慌てて席へ寄って来た。


*「あ、あの…!よ、良ければ学院案内するんで一緒に回りませんかっ…!」

『…え…』


顔を赤くしながら必死に誘ってくれる男の子。
何故だか後ろの男の子たちの集団から‘‘おぉ〜”という感嘆の声が上がった。何に盛り上がっているんだ一体。
その男の子に便乗し、俺も俺もと申し出てくる。


『え…え…ど、どうなってんのこれ』


当の本人である私はというと、いきなりの事態に何が何だか分からず軽くパニックに陥っている。


サリー「なぁんだミキも人気者じゃない。」

『ど、どうしたらいいのサリー…!』

サリー「せっかく誘ってくれてるんだもの。引き受けちゃえ〜」


ほんわかと笑顔で拳を上げるサリーを見て、この子に聞いても無駄だと悟った。
ひ、引き受けるったって…。
これじゃあまるで今のアレフ達みたいじゃん…。

………ん?


今の勇者たち

女の子に囲まれている

勇者の周りの席は座れない状態

目の前の男の子達は自分の席へ帰れない

つまり暇を持て余した彼らがやることはただ一つ

私に話し掛ける!



あぁ、なんだかとてもスッキリした。
合点がいきすぎる…!今頭の中のパズルが音を立てて全て繋がった気がした。
よっ!名探偵ミキ!!



*「あの…ミキさん…?」

『あっご、ごめんごめん!』


うっかり自分の世界に入ってしまい、完全に男の子の存在を忘れていた。
サリーの言う通りせっかく誘ってくれたっていうのもあるし、何より彼らの暇つぶし相手くらいにはなることができるだろう。


『うん、じゃあ宜しくお願いしま…』

ローレ「おい。誰の許可得てこいつを誘ってるんだ。」

『え…ちょ、ローレ』

レント「残念でした〜。ミキは俺と回んの。」


ズシッと頭に重みがかかったと同時に上から聞こえてくる挑発したような声。
れ、レントまで何を…。ていうか重っ…!

唖然となっている男の子たちを見て、何だか悪いことをしてしまったな…と心の中で謝る。
いつの間にかあんなに騒いでいた女の子たちまで静かになって、クラス中で今一番目立った状態となってしまった。

転入初日目からこんなことになるなんて…。


すると、休憩時間の終わりを知らせる鐘の音が学院内に鳴り響いた。
それとほぼ同時にガチャリと入ってきたガザール先生。


ガザール「よーし授業始めるぞー…ってお前ら何してんだ。早く席につけ。」


皆が個々に散らばって、やっとあの空気から解放された。
何かこの短時間でどっと疲れた気がする…。
ふぅーと静かに息を吐くとサリーがお疲れ様〜と笑いながら言ってくれたので、私も苦笑しながらお礼を言った。


ガザール「さっきの授業の立て続けに悪いが、今日はもう一人紹介したい人がいる。」

*「え、先生また転入生来るんですかー?」

ガザール「いや、喜べ。今度は新しい先生だ。…さ、どうぞ教室に入って来て下さい。」


ガザール先生がドアの方に目をやり、私たちもそれを目で追う。
閉められていた教室のドアがもう一度音を立てて開いた。
前の方の席から女の子の声が上がる。

だが、私はその入って来た人物を見て驚かずにはいられなかった。
思わず皆と目を見合わせてみると、皆もびっくりしているようだった。



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