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第30章






***




朝起きて、用意された朝食を食べて仕度をする。
どうやら起きたのは私が一番最後のようで、皆は既に出発の準備はバッチリらしい。

あせあせと仕度しながら、ふわぁ…と大きなあくびが出た。
まだ少し眠い。


もう一度出そうなあくびを抑え、畳んであるボロボロのドレスを手に取った。
ドリスちゃんの所に行かなくちゃ。

皆には一言話してあるので、待っててくれるとのこと。

私は足早にドリスちゃんの部屋へと急いだ。









ガチャッ




『ドリスちゃん!』


ドリス「まったく…あんた達はろくに礼儀も知らないのね。ノックくらいしなさいよ。」


『あ…ご、ごめん。』



私が謝ると、ドリスちゃんはクスッと笑って手鏡を置いた。
その笑顔に安心し、私はドリスちゃんに近付く。



『あのね…もう一つ謝らなきゃいけないことがあるんだけど…これ…』


ドリス「あら、わざわざ返しに来てくれたの?」



おずおずとボロボロになったドレスを差し出すと、意外にもドリスちゃんの反応は普通だった。



『ごめんね、せっかく貸してくれたのにこんなボロボロになっちゃって…』


ドリス「なぁに?まさか私がそんなことで怒るとでも思ってるわけ?別にいいわよそんなの。」


『え…でも…』



私がずっと申し訳なさそうにしていると、急にむにっとほっぺを摘ままれた。



『いひゃっ!な、なにひゅるのドリスひゃん!』


ドリス「バカね。そんなものどうなったっていいのよ。ドレスなんていくらでも、山ほどあるんだから。」



痛いともがいていると、少しドリスちゃんの手が弱まった。
目線を横にずらし、声も一段と小さくなる。



ドリス「…でも、ミキは一人だけよ。たった一人の私の友達。」


『ドリスひゃん…』


ドリス「ぷっ…そうそう。あんたはそんなマヌケ面の方が似合ってるわ。」



そう笑うと、ドリスちゃんはやっとほっぺから手を離してくれた。
でもどこか寂しそうに見えて、私は思わずドリスちゃんに抱き付いた。




ドリス「きゃっ…な、何よ。」


『ありがとう、ドリスちゃん。私、ドリスちゃんと仲良くなれてよかった…。心配かけてごめんね。』


ドリス「…まったくだわ。」


『私はこれからまた旅に出なきゃいけないけど、ずっとずっと友達だよ!』


ドリス「…当たり前じゃない。っていうかいい加減苦しいんだけど。


『あ、あはは。ごめんつい…。』



苦しいと訴えてきたドリスちゃんに強めていた手を離し、もう一度向き直った。
するとドリスちゃんはさっき机に置いた手鏡を手に取り、私に差し出した。



ドリス「これ、あんたにあげる。」


『え…いいの?』


ドリス「ええ。これで少しは身だしなみでも整えたらどうかしら?」


『ありがとうドリスちゃん!でも私何もあげれる物が…』


ドリス「いいわよそんなの。私が好きであげたんだし。」


『えーそういうわけにいかないよ!何か渡さないとドリスちゃん私のこと忘れそう。』


ドリス「失礼ね。…だったらこうしない?私へのプレゼントは次に会った時渡してくれればいいわ。」


『ドリスちゃん…』


ドリス「ただし、とびっきり面白い旅の話もつけなさいよね。私はそれまでずーっとお城暮らしで外へなんか出られないんだから。」


『もちろん!最高の冒険話を持って来るからそれまで忘れないでよ?』



そう言うと、私たち二人はお互い吹き出し、最後まで笑顔で過ごすことができた。

こんなに素敵な友達ができるなんて、やっぱり旅って楽しいかもしれない。








***




ドリスちゃんとの別れを終え、階段を降りる。
手鏡をスカートのポケットに入れて入口の方へ向かっていると、どこからか誰かが走ってくる音が聞こえてきた。





ピピン「ミキお姉ちゃーーーーんっ!!!」


『ピピンくん!』



私の前まで来たピピンくんは、はぁはぁと息を整えている。
そんなに急いで来てくれたんだ…。
そういえばピピンくんにはお城の案内をしてもらったなぁ。



ピピン「ミキお姉ちゃん、また旅に出ちゃうんでしょ?もうバイバイ?」


『うん、もうバイバイの時間かな。わざわざ走って来てくれたんだね、ありがとう。』


ピピン「…ほんとに行っちゃうの?」


『…うん。』


ピピン「そっか…」



寂しそうに目を逸らし、手を後ろで組むピピンくん。今にも泣きそうだ。
しゃがみ込み、ピピンくんと同じ目線になる。



『ピピンくん、次に会えるのはいつになるか分からないけど、それまでこのグランバニアを守ってくれる?』


ピピン「…うん!もちろん!」


『じゃあ次に会う時までしっかり鍛えて強くなってね!ピピンくんが見せてくれた、あの綺麗な景色を守ってほしいな。』


ピピン「うん!ミキお姉ちゃんが帰って来たら、今度はボクがミキお姉ちゃんを守るからね!」


『ふふっそれは楽しみだなぁ。ピピンくんならきっと素敵な兵士さんになれるよ。』


ピピン「ボクがんばる!ミキお姉ちゃん、ぜったいぜったいまた遊びに来てね!」




そう言って思いっきり手を振ってくれるピピンくんは、初めて会った時のようなキラキラした笑顔だった。
さっきまでの泣きそうなピピンくんはいない。

私も笑顔で手を振りながら、グランバニア城の入口を出た。




凄く短い間だったけど、たくさんの思い出ができた場所だ。
大切な友達もできたし、可愛い小さな兵士とも仲良くなれたし…。



またいつか来たいなって思える素敵な場所でした。





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