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第30章







***





『………。』




…あなたは私たちの希望の光なのです…。どうか、世界を魔の手から救って下さいね……




『希望の光、か……。』



ベッドの中でルビスさんの言葉を思い出し、ポツリと呟く。
あの後グランバニアへ帰り、休ませてもらうことになった私たち。
私は来た時に使わせてもらった部屋でまた休んでいる。

ここ数日の出来事があれなだけに、中々眠りにつくことができなかった。
ふと隣を見ると、机に畳んで置いてあるドレスが目に入った。



『ドリスちゃんに貸してもらったやつ…』



思えばあの晩のパーティーからの出来事だったので、当然服装はあの時のまま。
いつもの制服とは違い、貸してもらった綺麗なドレスだ。

しかしその綺麗なドレスも、飛び蹴りのせいか激しい戦闘のせいかボロボロになってしまっている。

どうしよう…せっかくドリスちゃんが選んで貸してくれたものなのに…。



『そうだ、今から謝りに行こう!』



申し訳ない気持ちでいっぱいだったというのもあるが、何だか無性にドリスちゃんに会いたかったのだ。

そう思い立ってベッドから飛び降り、階段の方へ走って向かう。



ドンッ!



『うわっ』


「おっと」



ついつい急ぎ過ぎて前をよく見ておらず、そのせいで誰かにぶつかってしまった。
私は慌ててペコッと頭を下げた。



『ごっごめんなさい!前をよく見てなくて…』


「ふふ、いいよ。ミキちゃんこそ大丈夫?」


『え…リュカ?』



顔を上げると、そこには苦笑しているリュカがいた。
全然知らない人じゃなくて良かったと思う反面、少しギクリとする。



リュカ「それよりミキちゃん、どこに行くつもり?」


『あ、あー…えっとちょっとドリスちゃんのとこに…』


リュカ「はぁ…そんなことだろうと思ったよ。様子見に来て正解だったかな。ダメじゃないか、休んでないと。」


『う…。だって眠れなくて…』


リュカ「気持ちは分からなくもないけど…。今何時だと思ってる?もう夜中だよ。」


『えっ?!もうそんな時間なの?!』



色々考え込んでるうちにそんなに時間が経過していたなんて…。
夜中じゃドリスちゃんに会いに行っても寝てるよね。
あぶないあぶない。



リュカ「ほら、分かったらベッドに戻る。」


『はーい…』



リュカが私の背中を片手で押し、ベッドへと引き戻されてしまった。
仕方なくベッドの中へ入り、布団をかぶる。




リュカ「じゃあ今度こそ休むんだよ。」



『………ねぇリュカ』



私がベッドに入ったのを確認してリュカが部屋から出ようとした時、思わず呼び止めた。
上半身だけ起こし、もう一度リュカを見る。



リュカ「ん?」


『…平気?』


リュカ「平気って…何が?」


『だって…あの塔からずっと苦しそうな顔してるよ。』


リュカ「……。」



言っていいのか分からなかったが、辛そうな表情ばかりするリュカに、声を掛けずにはいられなかった。

もしかしたらリュカにとってこの話題は踏み込んじゃいけない領域かもしれない。

でも、放っておけなかったんだ。


するとドアの方にいたリュカが、ベッドの側へ寄ってきて置いてある椅子に腰掛けた。
この光景はリュカ達が王家の証を取りに行く時にもあったな…とぼんやり思い出す。



リュカ「…さすがミキちゃんは鋭いね。」


『……。』


リュカ「平気かって聞かれたら…よく分からない…」


『……その原因ってやっぱりゲマのこと?』



いけるところまでいってみよう。
リュカの辛い気持ちを共有することで、もしかしたら少しでも楽にしてあげることができるかもしれない。

「ゲマ」という名前を出した瞬間、リュカの顔が少し強張ったのが分かった。



リュカ「それもあるかな…」


『そう、だよね…』



いつか夢で見たリュカの過去と、ポートセルミで自分のことを話してくれたリュカのことがフラッシュバックする。

ゲマはリュカにとって最も憎むべき相手だろう。
そんなやつと思わぬ再会をして、辛くならない方が無理だ。

自分で聞いておきながら、リュカを更に傷付けてしまったのではないかと自己嫌悪。




リュカ「…違うんだ、ミキちゃん。」


『え…?』


リュカ「多分君は今、自分がゲマの話題を振ったことで僕が嫌な思いをしたって考えてるだろ?」


『それは…』


リュカ「いいよ、隠さなくて。でもね、それは違うんだよ。」


『違う…?』


リュカ「いつだったか言ってくれたよね。《自分を責めないで》って。嬉しかったんだ、僕。」


『リュカ…』


リュカ「ミキちゃんがいてくれたから、過去のことも乗り越えられるようになった。でも、今度はそんなミキちゃんが攫われてしまった…」


『……。』


リュカ「その時は少し昔の記憶と重なったかもね。また大切な人を失ってしまうんじゃないかって…。情けないけど怖かったんだと思う。」


『……。』


リュカ「何度もミキちゃんを守ってみせるって誓ったつもりなんだけど…。今回もまた結局危険な目に合わせてしまった。そんな自分が許せなかったんだ。」



またあの塔で見たような苦しい表情を浮かべるリュカ。
そんな顔をしてほしくなくて、私は口を開いた。



『リュカ…また自分を責めちゃってるよ?責めちゃダメって言ったじゃん。』


リュカ「…そうだね」


『それにね、私はいなくなったりしないよ。危険な目に合ってるのは皆も同じ。リュカだってそうでしょ?』


リュカ「それは勇者だから…」


『バカだなぁ…忘れたの?私だって光の神でしょ?勇者の皆と一緒に世界を救う存在。冒険に危険なんて付き物だよ!』


リュカ「ミキちゃん…」


『《最高の冒険にしてみせる》って約束したよね。それを目指すなら危険な目にだって合わずにはいられないよ。』


リュカ「ふふっ…そうだね。」


『あっ!でも今回みたいに私がピンチになったら手伝ってよ?見てるだけとかやめてね!』


リュカ「もちろん。駆けつけるよ。」


『ありがとう。私も皆に比べたらまだまだ弱いけど精一杯頑張るからね。』


リュカ「うん。でも頑張り過ぎないか心配だな。今日みたいに飛び蹴りなんて無茶はなるべくしないでね。」


『うっ…で、でも会心の一撃出たし…』



そう言うと、リュカはやっと笑ってくれた。
そうだよ。私はリュカの笑った顔が見たかったんだ。



リュカ「ミキちゃんは凄いな。前よりどんどん強くなってる。」


『え…え、私まだスライムも一撃で倒せないよ?


リュカ「あははっ違うよ、気持ちの話。凄く成長してるなって思う。」


『あ、あぁそっちの強さね…。うーんどうだろ…』


リュカ「自分では気付いてないかもしれないけど…。でも辛いことがあったらいつでも言うんだよ?」


『うん、ありがとう…』



お礼を言うと、リュカはふぅ…とため息をついてつまらなさそうにそっぽを向いた。



リュカ「何だか僕ばかりミキちゃんに助けられてる気がするなあ。ちょっと悔しい。」


『え?!そ、そんなことないよ。』



何か少しだけリュカが子供っぽく見えた気がした。
いつも大人な雰囲気のリュカが珍しい…。
ちょっと可愛い、なんて思ってしまったのはここだけの秘密。




リュカ「それにしても今日のミキちゃんは大活躍だったね。」


『いやぁ…自分でも何が何だか…』


リュカ「それも光の神の力なのかな?かっこよかったよ。」


『そ、そんなに褒めないでよ!恥ずかしくなってきた。』


リュカ「ふふ、よく頑張りました。」



そう言って私の頭を優しく撫でる、その大きな手とふわりとした笑顔にますます恥ずかしくなる。
そんな私を見て、リュカは楽しそうに笑った。



リュカ「立場逆転、かな?」


『悔しい…』



リュカ「随分話し込んじゃったね、ごめん。僕も寝ようかな。」


『あ…私こそごめんね。呼び止めちゃって…』


リュカ「むしろ感謝してる。ありがとう。」


『ううん。…じゃあおやすみ』



椅子から立ち上がるリュカに、私も横たわってベッドの中から手を振る。
すると、ドアの方へ行くのかと思ったら何故か私の方へ歩み寄るリュカ。

完全に頭の上に「???」を浮かべていると、リュカが枕の横に片手をついた。

え?!と驚いて目をぱちくりさせているうちに、リュカとの距離はどんどんと縮まっていく。

ふっ…と影がかかり、思わずぎゅっと目を閉じると











ちゅっ











リュカ「おやすみ、ミキちゃん。」






ぽかんと見つめる私に、にこりと笑って部屋から出て行くリュカ。

しばらく何が起こったのか分からなかったが、右手をそっとおでこに持って行く。


え…え、っと…リュカ、今私のおでこに…?



状況が把握できているのかできてないのか混乱気味で、どんどん顔に熱が集まっていくのを感じた。

そんな赤くなった顔をどうにかしたくて、布団を頭まで深く被った。







今夜は寝られそうにないかも。




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