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第30章







*「ほっほっほっほ…まさか光の神とその勇者が自ら出向いて下さるとは…」



突然背後から聞こえた声。
口調こそ丁寧だったが、何故だか悪寒のするような話し方だ。
声の主に皆が振り返る。




リュカ「ゲマ…ッ!」


レント「リュカ、あいつのこと知ってんのか?」


リュカ「……。」


ゲマ「ミルドラース様の予言は二つありました。勇者の子孫は高貴な身分にあること、そして近いうちに光の神とその勇者が現れること…。」



私の前にズラリと並んだ皆の隙間から、やっと声の主を見ることができた。
リュカがゲマと呼んだそいつはとても不気味な笑みを浮かべ、私たちを見ている。



ゲマ「その予言に従い、かねてよりめぼしい子供をさらっていたのですが…。どうやら今の状況ではもう片方の予言を先に対処しなければならないようですね。」



レック「な、何をする気だ…」


アレフ「回復しそびれちゃったけどどうしよう…!」


ローレ「今はそんなこと言ってられないだろ!」


ゲマ「ジャミを倒したのはあなたですね?消滅させる程強い光とは…やはり光の神をこのまま生かしておくわけにはいきません。」


『…っ。』



笑みを崩さず、コツコツと近付いてくるゲマ。
私は身がすくみ上がるのを感じた。
さっきみたいに光を出そうにも、体力の限界で腕を持ち上げるのも辛い程だ。

どうしよう…。皆も随分体力を削られた後だからきっとゲマには勝てっこない。



ゲマ「ほっほっほっ。一息に殺してしまってはおもしろくないでしょう?石になり、その身体で世界の終わりをゆっくり眺めなさい。ほーっほっほっほ!」


アルス「ミキ…!」



ゲマが手を勢い良くかざし、その手から青く濁った光が見え始める。
光は大きさを増し、手を私たちに向けた。

リュカが私を庇うように強く抱きしめる。
皆も急いで私の前に立ちはだかろうと駆け寄った。


その数秒の出来事が何故だかとてもスローモーションの映像のように感じる。
どうするとこもできないこの状況に、脳がついていってないのだろうか。

ジャミを倒せたって、すぐまた強い敵が出る。
目を閉じることも忘れて、その様子をジッとリュカの腕の中で見つめた。




…ミキ…ミキ…聞こえますか…


『えっ?だ、誰…?』



突然聞こえた不思議な声に、辺りをキョロキョロする。
するとさっきまでスローモーションのように動いていた皆も、まるで時が止まったように動いていなかった。



『ど、どうなってるの…』


…私は精霊ルビス。ミキ…あなた方はここで立ち止まるわけにはいきません…


『ルビス、さん…?でもどうしたら…』


…安心して下さい。ここは私が何とかします…まだ微力ではありますが、この場を凌ぐことはできるでしょう…


『えっ…?でもルビスさんが…っ!』


…あなたは私たちの希望の光なのです…。どうか、世界を魔の手から救って下さいね……



そう言い残すと私たちの目の前に光が集まり始め、一人の綺麗な女の人が現れた。
私を振り返り、優しく不思議な笑みを浮かべた。
この人がルビスさん…。


ボーッとしていると、時が止まっていた辺りの様子が魔法が解けたように動き始めた。

こちらに向けたゲマの手から青く濁った光が放たれる。
それは私たちの方向に向かい、やがて渦を巻き出した。




ゲマ「ほっほっほ…これで一つの予言は片付いたようですね。」


『ルビスさん…ッ!!』



大声で名前を叫んだが、その人物は先程のように振り返って笑いかけてはくれない。
いや、振り返れないのかもしれない。

ゲマは私が普通通りだったことに驚き、不適な笑いを止めた。



レント「あれ…お、俺らなんともねーぞ?」


ローレ「助かった…のか?」


リュカ「…ミキちゃん?」


『ル、ルビスさんが…』



リュカの腕の中で震えながら指差す方向を、皆が見る。
私たちを守るようにして立っているのは



アルス「石像…?」


エイト「こんなのさっきまでなかったよね…?」



そう、石になってしまったルビスさんがいたのだ。
ルビスさんが守ってくれなければ今頃私たちがあの姿になっていたことだろう。



ゲマ「これはこれは…驚きました。まさかこの世界にまで精霊ルビスが現れるとは…。」


ソロ「精霊ルビス…?」


ゲマ「しかし既に石の姿。もはや彼女には為す術もないと思いますが念のため封印しておきましょう…。命拾いしましたね、皆さん。今回はこのくらいにして差し上げましょう。ほっほっほっほ…」



不敵な笑い声をあげながら、ゲマは石像にされたルビスさんを連れ、静かに闇の中へと消えて行った。
リュカが何かを噛み締めるような、苦しい表情をしたのが見えた。



『……。』


ナイン「…とりあえずグランバニアに戻りましょう。」


レック「…そうだな。これからのことは一旦休んで決めようぜ。」






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