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第28章








『……ん…?』



ゆさゆさと揺れる感覚を全身に感じ、今まで閉じていた瞼をパチリと開ける。

私は一体今何を……




『…ってぎぃやああぁあ!!!


「おい、うるさいぞ!!!」



えっ?え、えっ?!これどういう状況なの?!
なんか揺れてるなーって思って目覚ましたら二足歩行の馬の脇に抱えられて歩いてるってこれどういう状況?!

しかも辺りを見るとここかなり高い!
塔の上かどこかだろうか…。



『ちょっ…ちょっ、あの、』


「……。」


『あの、聞こえてます?ますよね?もしかして聴覚はそんなに発達してな…』


「うるさいと言っているのが聞こえないのか貴様。」



ひ、ひいいぃ怒られた。
馬っぽいと思ったけどよく見たら本当に馬そのものだった。
せめて、せめて状況を説明して…。



*「ケケケ!ジャミ様!そのうまそうな女は一体どうしたんです?」



突然のことに混乱していると、今度は鳥…キメラかな?
キメラが馬に話しかけてきた。
このキメラ普通のよりちょっと豪華だ…。

ジャミ様っていうのはおそらく馬の名前だろう。



ジャミ「ふん…ゲマ様がお探しの小娘だ」


*「キキッ!というとまさか天空の…」


ジャミ「いや、勇者でない。もっとも勇者共をおびき寄せる道具でもあるのだがな」



聞き慣れないような聞き慣れているような単語が飛び交う中、私の頭はますます混乱するばかり。
ゲマ…?天空…?勇者…?
勇者共っていうのはまさか…いや、絶対皆ののことだ!
それをおびき寄せるのが私って…。じゃあ皆はここには来ちゃマズイってことだよね?



ジャミ「時期に奴らがここへやってくるであろう。もし来たらお前が相手をしてやれ。」


*「ケケケッ!承知しやした!久々のご馳走ってわけだな…。」



そう言うとジャミはさらに奥の階段へと向かい、降りて行った。

知らない間に知らない所に連れてかれ、どんどんと事が大きくなっている。
だけどここでパニックに陥ったままではいけない。


助けられるだけの自分はもう嫌だ!!
皆がここに来るまで自力でなんとかしよう!

そう強く決心した時、



ドサッ!!



あだっ!!



馬野郎に急に投げ飛ばされ、思い切り身体を硬い床にぶつけてしまった。
仮にも女の子なんだからもっと丁寧に降ろしてよ!

そんな気持ちを込めてジャミに思い切り睨みをきかせた。



ジャミ「…。」


『…。』


ジャミ「…。」



無視かよ!!

睨み過ぎて頭痛くなってきたぞ!
瞼を抑え、パンパンと服を払いながら立ち上がる。
そして玉座のような物に踏ん反り返っているジャミの目の前まで行き、しっかりと目を見据えた。



『ちょっとジャミ!』


ジャミ「…。」


『馬!!聞こえてるんでしょ!無視は辛いからやめて!』


ジャミ「騒がしい小娘だ。それとオレは馬ではない。ジャミ様だ。」



いやどっからどう見ても馬ですけど。
思わずそう言いそうになって慌てて口をつぐむ。
こんな奴に様を付けるのは癪だが、そうでもしない限り聞く耳さえもってくれなさそうだ。



『……ジャミ様、私をここから出して。』


ジャミ「そう言ったら素直に逃がすと思って口を開いているのか?人間は相変わらずマヌケな奴ばかりだな。」



バカにしたように私を見ながら鼻で笑う。
その度に馬っぽく口元がブルルッて震えるのやめて。
私まで笑そうになるから。



ジャミ「大体お前は自分の立場をよく分かっているのか?」


『私の立場…?』



そう言われて一番最初に頭に浮かぶのは、自分が《光の神》だってこと。
この世界に来てから、ずっと私の背中に覆い被さっている大きな使命。



ジャミ「どうやらあまりよく理解していないようだな。ふん、いいだろう。どうせお前はここで滅ぶ運命…自分がどんな立場なのか少し説明してやる。」


『……。』


ジャミ「《光の神》がお前であることは知っているな?」


『…そんなの知ってる。世界を救わなきゃいけないことも。』


ジャミ「ではその存在が人間にとってどれだけ貴重なものか分かるか。オレ達にとっては邪魔なこと極まりない存在であることもな。」



『……。』



そんなこと理解したくなくても必然的に理解する内容だ。
言われなくたって分かり切っている。



ジャミ「《光の神》というのはどの世界を探してもたった一つの存在しかない。つまりお前のみというわけだ。たった一つの存在だけでこの世界の平和が維持されていると考えると実にちっぽけだな!」



高笑いするジャミを見て、悔しくなって唇を噛み締める。
何がおかしいっていうの。



ジャミ「しかしその世界もたった一つだけの存在では平和を維持できなかったみたいだな。」


『どういうこと?』


ジャミ「世界では魔物達で溢れ返り、滅ぼされた町や城などいくつもある。なぜ人間共が勇者を必要としているか。守り続けてきたお前ではなく、勇者を欲しているのはなぜか…よく考えてみるがいい。」







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