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第28章
ドリスの助言通り大臣の部屋をよく調べてみた所、タンスの中から一足の靴が出てきた。
翼をモチーフとしたものがサイドについている変わった靴だ。
アレフ「こ…れはまたキュートな靴だね…」
レック「大臣……こんな趣味に走る程追い詰められてたのか…」
皆で何とも言えない表情で靴を見つめる。
そう考えると大臣がなんだか色んな意味で可哀想になってきた。
ローレ「でもこれどうやって使うんだ?」
ソロ「靴なんだから履くに決まってんだろ。」
レント「ローレお前……」
ローレ「大臣の靴を見るような目を向けるな。もしかしたら他に使い道があったかもしれないって思っただけだ!」
靴の履き方さえ理解していなかったのかと憐れみの目を向けるレントに対し、ローレは必死に弁解した。
リュカ「さてと…どっちにしろこれを使って北に行くのは間違いないだろうし、外に行こうか。」
エイト「そうだね。早く北へ向かおう。」
そう言って大臣の部屋から出て階段を降りようとした時、勇者達の前に一人の人物が現れた。
サンチョ「坊っちゃん!」
リュカ「サンチョ…」
サンチョ「坊っちゃん、外へ行かれる前に私の話をちゃんと聞いて下さい。」
リュカ「……。」
サンチョの真剣な、しかしどこか必死な表情に、皆足を止めた。
なんとなくサンチョが言いたいことも予想ができるが、黙って次の言葉を待つ。
サンチョ「坊っちゃん達、ミキさんを捜しに行かれるおつもりでしょう?」
リュカ「…あぁ、そのつもりだよ。」
サンチョ「それはなりません!お気持ちは分かりますが、ここは兵士に任せてどうかしばしのご待機を…!」
リュカ「……。」
苦しそうなサンチョの訴えを聞き、黙り続けているリュカを皆が見る。
皆は何と言っていいのか分からない様子で、二人を心配そうに見比べた。
だがリュカはなおも沈黙をやめず、しっかりとサンチョの目を見ていた。
サンチョ「………と、本来ならばそう申し上げるべきなのでしょうね。」
サンチョは深いため息をつき、さっきの必死な表情とは別に、今度は困ったように笑いかけた。
すると、強張っていたリュカの表情も少しだけ柔らかくなった。
サンチョ「この城の者として言うべきことではないのは承知しております。…ですがパパス王、そしてリュカ坊っちゃんにお仕えてしてきたこのサンチョが言うべきなのは、ただ一つでございます。」
すぅ…と息を静かに吸い、もう一度リュカを見る。
その時のリュカは、もう既に優しいいつもの穏やかな表情に戻っていた。
サンチョ「坊っちゃんのしたいように、坊っちゃんが望む新たな道をその手で切り開いて行って下さい。」
リュカ「…ありがとう、サンチョ。」
サンチョ「20年前のあの日のようにならぬよう、繰り返される歴史にならぬよう、坊っちゃん自身の手で変えて下さい。」
リュカ「……そうだね、君ならそう言ってくれると信じていた。…行ってくる。」
それだけ言って微笑み、勇者達を引き連れて階段を降りて行くリュカを最後まで見送る。
パパス王のように逞しくなったその大きな背中と、小さい頃から変わらない、マーサ様と瓜二つの不思議で優しそうな瞳。
あんなに小さかった坊っちゃんがこんなにも立派になって帰ってきてくれたのだ。
これ程以上の幸せは他にないだろう。
だから今度はこのサンチョが坊っちゃんをお送りする番でございます。
立派になった今の坊っちゃんならば、お仲間と共に世界を救ってくれると信じております。
サンチョ「…坊っちゃん達がまたご無事でお帰りになられることを心よりお待ちしておりますよ。」