24-4

第24章






***




「それでねここがお城の中で1番眺めがいい所なんだ!」


『はぁ…はぁ…ちょ、ちょっと休憩しよう…ピピン君…。』



膝に手をつき、息を整える。
お城の案内をしてくれるというピピン君に手を引かれ、あれやこれやとガイドされた私。

予想以上にスピードが速い案内で、まるでお城中を走り回ったようだった。


つ、疲れた…。
若者のパワーにゃついてけん…

自分でもビックリな年寄り臭いセリフが飛び出るくらい、病み上がりの私にとっては割ときつかった。



「ミキお姉ちゃん大丈夫?」


『うん、もう大丈夫だよ。…うわぁ!本当だ、ここから見る景色は凄く綺麗だね!』


「えへへーでしょー。ここに来た時はいつもお父さんが肩車してくれるんだ。お姉ちゃんもやったげようか?」


え"っ?!い、いやぁそんなことしたらピピン君潰れちゃうかと…』



私よりも遥かに小さいピピン君が私に向かって手を広げる。
そんな子が私を肩車してる姿を想像しただけで痛々しい…。


『でも本当、風が気持ちいい…。グランバニアって、とっても素敵な所だね!案内してくれてありがとう、ピピン君。』


「う、ううん…どういたしまして!」


私がお礼を言うと、ピピン君は少し頬を赤くして恥ずかしそうに笑った。

可愛いなぁ。





「ピピン!」



突然少し高めの声でピピン君の名前が呼ばれる。

驚いて振り返ると、そこには綺麗なドレスを見にまとった高貴者そうな女の子がいた。

同い年くらいだろうか…。



「ドリスお姉ちゃん!」


「ドリス様でしょ、ピピン。あんた、さっきお父さんが探してたわよ。早く行ったら?」


「えっ!お父さんが?大変だ、ボク行かなきゃ!じゃあまたね、ミキお姉ちゃん!」


『うん。今日はありがとう。またね!』



私に手を振りながら走って行くピピン君を笑顔で見送り、姿が見えなくなったのを確認してから女の子に向き直った。


見た目からしてお姫様っぽいし、さっきピピン君にも様つけろって言われてたからここはちゃんとしといた方がいいよね。



『えーっとドリス、様…?でしたよね。』


「別にドリスでいいわよ。」


『え、でも…』


「あんたのことは聞いてるわ。あんた、パパス叔父様の子供の仲間なんですってね。名前は?」


『あ、ミキです。』


「敬語もいらないってば。見た感じあたしと同じくらいの歳でしょ?」


『そっか。じゃあお言葉に甘えて…。ドリスちゃんはお姫様だよね?』


「まぁね…でもあたしはさ、本当はお姫様なんかにはなりたくなかったのよ。」


『そうなの?』


「そ。でも親父が王様になったもんだからあたしもお姫様にされちゃってさ。あーあ、もっと気楽に暮らしたかったなぁ…」



外壁に片手を添えながらつまらなそうに呟くドリスちゃん。
一瞬、その姿が少しだけ自分と重なって見えた。



「なーんて!初対面のあんたにこんなこと言ったって仕方ないわね!ごめん、愚痴っちゃったりして。」


『なんだか、似てるね。私と…』


「え?」


『気楽に暮らしたいって気持ち、よく分かるよ。私もずっとそう思ってたから。今でもたまに思うことあるし…。』


「へぇー何だか事情がありそうね。」


『ドリスちゃんとはちょっと違うけど、私もあることがきっかけで普段の生活が一変しちゃったんだ。それも重大な責任付きで。だからドリスちゃんと似てるなって。』


「ふーん。ちょっとどころかかなりスケールが違う気がしなくもないけど。まぁいいんじゃない?あんた、楽しんでるわよ。」


『え?』


「なんだかんだ言って、結構今の状況楽しんでるように見えるけど?あたしには。」



ピッと人差し指で私を指し、上目遣いで私の目を見るドリスちゃん。
じっと目を見つめられ、自分でも気付かない本心を見抜かれているような気がする。





まつ毛長いね、ドリスちゃん。


それ今言う?



思ったことを口に出しただけのつもりだったのだが、ドリスちゃんはクスクスと楽しそうに笑っている。

なんかお人形さんみたいだけどサバサバしてて話しやすい女の子だな…。
最初はもっとキツい感じの子かと思ってたけど。



「ていうかさ、さっきゾロソロと男共が試練の洞窟の方へ向かってたけどあれもミキの仲間なの?」



“男共”や“試練の洞窟”というキーワードから連想させて、間違いなくリュカ達だろう。


今頃どうしてるかな…。
だんだん日が傾いてきてるけど、無事に王家の証は手に入れられただろうか。



「あの人達、超イケメン揃いじゃない?!」


『えっ!?』


「いいなぁあんなイケメンに囲まれて旅するなんて…。ミキったら羨ましい!」



ドリスちゃんがバシッと私の肩を叩く。
痛い。地味に痛いよドリスちゃん。
どこか興奮した状態のドリスちゃんに、少し笑ってしまう。

ふふっ、さっきまであんなにつまんなそうだったのに…。



「ミキ、あの中で誰か気になる人とかいないの?ほら教えなさいよ!」


えっ!?い、いやいないよそんな人!皆大切な仲間だってば!ドリスちゃんこそ誰かお目当ての人がいたんじゃないの?』



突然予想外な質問をされ、慌てて話を相手にパスする。
内容が内容だけに、少し頬が熱くなるのが分かった。



「あっはは、やだぁ!そんなわけないじゃん!確かにイケメン揃いとは言ったけどただの目の保養よ、保養。なんせ周りには護衛だのなんだののゴツい奴らばっか。やんなっちゃうわよねホント。」


ドリスさん…
そこで見張りをしてる兵士さんがすっげぇショック受けた顔してるけど大丈夫なの?


ドリスちゃんのキツい一言により、それは兵士達にとって言葉のナイフとなり確実に心のHPを削り取ったようだ。
俯いてプルプルしてるよあの人。



「でもあたし嬉しいんだ。こんな風に同い年くらいの女の子と恋バナすることなんて滅多になかったからさ!」


『ふふっ、私も嬉しいな。こんなに素敵なお友達ができたんだもん。』


「そうだ!今からあたしの部屋に来なさいよ。ミキをとびっきり可愛いお姫様にしてあげるわ!」


『えぇっ?うわっ、ちょっと待ってよドリスちゃーん!』



楽しそうに笑うドリスちゃんに腕をグイグイと引っ張られながら、私は何だかデジャヴを感じるのだった。



何か今日はよく引っ張られる日だなぁ…。




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