第1章
第1章
***
翌日。
エイトはルイネロさんに会いに行くことについて仲間に話した。
ゼシカ「…なるほどね、分かったわ。じゃあ今からルイネロとかいう占い師の所へ行きましょう。」
『え、でもいいんですか?ゼシカさん達も何か目的があって旅してるわけですし…』
ゼシカ「何言ってるのよ。いいに決まってるじゃない!それに何だかミキって放っておけないもの。あと、私のことは呼び捨てでいいわよ。敬語もいらないわ。大して年齢変わらないでしょ?」
ククール「オレのことも呼び捨t…」
エイト・ゼシカ「「お前には聞いてない」」
うわぁ…見事にハモってる。
いい終わらない内にズバッと否定されたククールさん。
な、なんか段々可哀相に見えてきた。
ククール「ゼ、ゼシカはいつものことだけどエイトまで何だよ。」
エイト「じゃあルーラでトラペッタに行こう。」
ククール「無視かよ」
エイト「あれ?そういえばヤンガスと王様と姫は?」
ゼシカ「昨日飲み過ぎたみたいで今酒場で爆睡中よ。馬車も酒場の馬小屋にいるわ。」
エイト「はぁ…。まあいいや。二人は置いて行こう。」
しれっと言い放つエイトに、思わず二度見しそうになる。
い、いいのだろうか。
今、王様と姫って聞こえた気がしたんだけど…。
エイト「ミキ、しっかり掴まっててね。」
そう言うとエイトは私を片手で抱き寄せ、私はエイトの胸に顔をくっつける形になってしまった。
は、恥ずかしい…!
頬に熱が集まるのを感じながら、言われた通りエイトにしっかりとしがみつく。
エイト「ルーラ!」
呪文のような言葉をエイトが唱え、その直後に風が私の髪の毛を上へなびかせた。
***
エイト「ミキ、着いたよ。」
『え、もう着いたの?!早っ!もう一種の瞬間移動だよ…』
エイト「まぁ瞬間移動みたいなものだよ。魔法だけどね。」
これは是非とも習得したい呪文ですな。
どうにかこの魔法を元の世界へ持って帰れないだろうか…。
そんな無茶なことを頭の隅で思い浮かべながら、訪れた新たな街を見渡す。
『ここがトランペットっていう町かぁ…。』
ククール「ちょっと待て。今何か別の単語が聞こえたぞ。」
『え?』
エイト「ミキ、トランペットじゃなくてトラペッタだよ」
『え?!う、嘘!だ、だって似てるから…っ!』
やっちまった。
さっき聞いたばかりの町の名前を間違えるなんて…!
クスクスと笑いが堪え切れていないエイトに、恥ずかしさが募ってムキになる。
『も、もう!笑わないでよ!ほらルイネロさんのとこ行こう!』
エイト「あははっごめんごめん。えーっと、ルイネロさんの家は…」
***
エイト「こんにちはー。」
ルイネロ「やはり来たか。おぬし達が来るのはもう見えておったぞ。わしを訪ねて来たのはただ道しるべを聞きにきたのではないみたいだな。」
『す、すごい…まだ何も話してないのに…。』
薄暗い建物の中、不思議な光を放つ水晶の前に座るおじさん。
この人がルイネロさんらしい。
どうやらインチキなんかではなく、本当に当たる占い師というのが今の言葉で証明された。
エイト「実はこの子のことなんですが、どうやら異世界から来たみたいなんです。本人もなぜだか分からないそうなので、どうするべきかと。何か手がかりはありますか?」
ルイネロ「ふむ…。占ってみるとしよう。」
ルイネロさんが目の前にある大きな水晶玉に手をかかげて何やらぶつぶつ唱えている。
何か悪いことをしたわけではないのだが、何だか落ち着かなくて、ゴクリと固唾を飲み込んだ。
ルイネロ「…む?!こ、これは…!」
ゼシカ「何か分かったの?」
ルイネロ「いや、逆じゃ。その娘についてはモヤがかかっていてほとんど見えん状態じゃ。だが次に行くべき所はなんとか見えるぞ。」
『ど、どこですか!?』
何にも手がかりがない状態のままだったため、つい興奮して身を乗り出してしまった。
一体その水晶玉は何を示し出しているのだろうか。
ルイネロ「…ロトの血を引く者達…と出ておる。」
エイト「ロトの血を引く者?」
ルイネロ「うむ…どうやらここも異世界の一つかもしれん。そこへ行くとその娘の謎が分かるらしい。」
『で、でもどうやってそこに行くんですか?異世界なんですよね?』
ルイネロ「そこへ連れていくことぐらいならわしにも出来る。じゃがその世界に行くにはそこのエイト。おぬしがカギとなっている。」
ルイネロさんの言葉に、その場にいた全員が一斉にエイトを見た。
エイト「僕が…?」
本人も予想外だったのか、自信を指差したまま目をパチクリさせる。
エイトがカギになるって…どういうこと?
ルイネロ「詳しくは分からんが、おぬしとその娘、何か深い関わりがあるらしいのだ。そこへ行くにはおぬしもついて行かなければなるまい。」
エイトも…?
それに異世界って、さらに違う世界に行かないといけないの?
聞けば聞く程謎は解決するどころか深まるばかり。
皆で首を傾げて考え込んでいる中、ククールが声を上げた。
ククール「おい。ということはお前が今ミキと一緒にそこへ行ったらオレ達の旅はどうなるんだ?」
ゼシカ「そうよね…。帰って来れるかも分からないし、ドルマゲスはどうするの?」
ルイネロ「心配はいらん。帰れるには帰れる。ただその手段として会うべき人物がいるようだがな。」
話が進んでいっているが、それを中断させるようにおずおずと私が話を滑り込ませた。
エイト達にはエイト達の旅がある。
それに差し支えが出そうならば、いくらカギだと言われても黙ってはいられない。
『あの…。そこって私一人じゃ行けないんですか?さすがにエイト達の旅を邪魔してまで行くことなんてできません。』
ルイネロ「行けるには行けるが、今のおぬしでは危険すぎる。それにいつかはエイトを必要とする日が必ず訪れるのだぞ。」
どうしよう…。
前に進みたいけどエイト達を邪魔するわけにはいかない…。
でも一人では行けないこともないって言ってるし、前に進むには危険は付き物っていうし…
エイト「行きます。」
『…え?』
ゼシカ「ちょっと、エイト本気なの?」
ククール「そうだよ、それにドルマゲスはどうするんだよ。」
エイト「僕は本気だよ。ドルマゲスはきっとまだまだ先だ。それに帰れなくなるわけじゃない。何かあったらルイネロさんの所へ来てあっちにいる僕らに伝えてもらえばいいんだから。」
ゼシカ「そうね…。それにミキだけじゃなくてエイトにも何か謎がありそうだしね。」
ククール「仕方ねーな。ま、オレはぶっちゃけエイトがいなくなるよりミキがいなくなる方が寂しいんだけどな。」
『あ、あはは…』
エイト「聞き捨てならないセリフだね。なんなら君だけ異世界に飛ばしちゃってもいいんだよ?」
エイト怖いよ!!背景黒いよ!!
さっきまでの笑顔よ戻っておいで。
これにはククールも弱いようで、苦笑いしながら少し後ずさりをする。
ククール「じ、冗談だって…」
ゼシカ「王様達には上手く言っとくから安心して。」
エイト「うん、助かるよ。」
『みんな、いいの…?』
ゼシカ「もー。ミキは遠慮しすぎよ。こっちは大丈夫だから行ってきなさい。」
『ありがとう…。』
皆優しすぎだよ。
ひたすらありがとうとしか言えない自分に悲しくなる。
すると、ゼシカが何か思い立ったように私に近付いてきた。
ゼシカ「あ、そうだわ!ミキ、特別に私の特技を伝授してあげる。これなら魔法が使えなくたって簡単にダメージを与えることができるはずよ。ミキ、耳貸して。」
ヒソヒソヒソ…
[ミキは投げキッスを覚えた。]
『え、えええっ?!そそそんな技恥ずかしくてできないよ!!』
ゼシカ「大丈夫よ!これくらいで気にしてたらこれからやってけないわよ?」
何がだ。
可愛らしくパチンとウインクをするゼシカに、反論しようにも言葉が出ない。
ゼシカ「最初はエイトにでも試してみなさい。ミキくらい可愛かったらダメージは相当大きいと思うわ。」
『う、うーん…』
エイト「何を教えてもらったの?」
ひょいと横から興味あり気に聞いてくるエイト。
技が技なだけに、素直に教えるのは気が引ける。
『ま、まままた今度やるよ!』
ククール「なんで照れてんだ。」
ルイネロ「…そろそろいいかの。」
ゼシカ「あら、いたの。」
ルイネロ「ひ、酷い!ここわしの家なのに!」
ぎゃいぎゃいと騒がしくなる中、エイトが私に手を差し伸べた。
その目は決意に溢れており、私もそれに応えるべくして頷いた。
エイト「じゃあ行こう。」
『うん…。』
差し伸べられた手に、ゆっくりと自分の手を重ねる。
ルイネロさんがまた水晶玉に手をかざし、ぶつぶつ何かを唱え出した。
段々と水晶玉の光が強くなっていき、
ぱあぁあぁぁ―――ッ!
この間と同じような眩しい光が私達を包み込んだのだった。