第1章
第1章
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『ふぅ…』
私は今、ホテルのベッドに座っている。いや、宿屋って言った方がいいのかもしれない。
たまたま人数分の部屋が空いていたので、一人ずつ別々の部屋に泊まることになったのだ。
…のはいいんだけど。
『この宿屋汚過ぎでしょ!何なんだあの窓は!もう囚人気分だよ!』
それにさっきのゼシカさんも。
あれ手から火出てたよね。
見間違いなんかじゃない。この目でバッチリ見た。
他の人だって剣みたいなの持ってた。
服装だって明らかに時代遅れ。別世界らしさまで感じる。
何なのここ。
怖いよ…。
今頃家ではどうなっているんだろう。
お父さんとお母さん、どうしてるかな…。
そんなことをもやもやと考えている内に、鼻の奥がつんとなり、目元がじわりと熱くなるのを感じた。
『…っ…』
コンコンッ
エイト「ミキ?入ってもいい?」
『…!は、はい!どうぞ!』
ノック音と共に聞こえたエイトさんの声に、私は慌てて涙を拭いた。
ここまで良くしてもらっている相手にこんな姿を見せるわけにはいかない。
ガチャッ
しかし、扉を開けて中に入って来たエイトさんは私を見た途端ハッとした表情になった。
エイト「泣いてたの…?」
『な、泣いてません。大丈夫です。』
エイト「嘘つき発見。まだ目が潤んでるよ?」
『こ、これはあくびしただけで…』
泣いていたことが見破られたにも関わらず、尚も否定する私。
すると、エイトさんがいきなり近付いてきて優しく私の背中に腕を回した。
『…っ?!…あ、あの、エイトさん?!』
エイト「そんな我慢しないで。たとえさっき会ったばっかりでもミキがつらい思いしてるのは見てて分かるよ。よかったら僕に話して?」
それからエイトさんはゆっくり体を離して私の目を見た。
その優しさに緊張の糸がほぐれたのか、私も少しだけ笑顔になることができた。
『…っ。ありがとうございます。エイトさん…。』
エイト「あ、僕のことはエイトでいいよ。それと敬語も禁止。」
『で、でも…』
エイト「もし使ったらお仕置きだから。」
え?!お仕置き?!
なんだか怖い単語が聞こえ、ヒヤッとしてしまう。
こ、これは逆らうまい…。
『わ、分かったよ。エイトさ…エイト。』
エイト「よろしい。おしいなー。そのままエイトさんって言ったらお仕置きできたのに。」
あわわわ…
一瞬エイトが別人に見えたのは気のせいだろうか。
ついさっきまでの温厚そうな表情とは打って変わり、黒い雰囲気を漂わせるその笑顔に部屋の温度が少し下がったようだった。
それから私達はかろうじて用意されてる椅子に座って話をすることにした。