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ご満悦である。自分で言うのもちょっとどうかと思うけど、自分の機嫌くらい自分でわかる。

「正直、当てるとは思ってなかったんだがな」
「教え方が上手かったんじゃないですか?」

少し凝った細工の簪。わたしが、最後の一発で当てた景品。たぶん、隠れ一等みたいな扱いだったんだろう。わたしだって、本当に当たるとは思ってなかった。

「イゾウさん、使います?」
「お前、本気で言ってんのか」
「嘘ですごめんなさい。…えっと、貰っていいんですか?」
「イズルが自分で取ったんだろ?」
「じゃあ、猫ちゃんはイゾウさんが持って帰ります?」
「いらねェか?」
「…いります」

この、掌の上で転がされてる感じ。感じじゃなくて事実、ころころ転がってるんだろう。何だよもう。わたしは、イゾウさんが欲しいものを聞いたんであって、あげたいものを聞いたわけじゃないのに。

「髪切っちゃったの、惜しかったかも」
「また伸ばせばいいじゃねェか」

頭を撫でる手が優しい。メンヘラ製造機かよ。依存するぞ。抱えた猫のぬいぐるみは、イゾウさんが当てた景品。額のとこがちょっと凹んでた。そんな、眉間狙うこともなかろうに。

「ふふ、ありがとうございます」

丸々してて、ぱっと見熊みたい。もふもふしてる。かわいい。抱き心地がいい。

「あ、イズル!」
「…、ハルタさん?」
「おー、無事だったか!」
「何の話ですか?」
「何でもない、こっちの話だ」

ゾノさんまで。サッチさんとゾノさんはわかるけど、ハルタさんも一緒なの珍しいな。無事って何の話だ。

境内は参道と違う賑わいで溢れていた。中央に組まれた櫓と、その回りで踊ってる人たちがいる。盆踊りみたい。曲調全然違うけど。何か、たぶん色んな国の要素がごっちゃ混ぜになってる。

「どうしたんだ、その熊」
「猫です。イゾウさんが取ってくれました」
「イゾウ隊長が?」
「射的で。すごかったです」
「ふふ、良かったねー?」

にっこり笑ったハルタさんが頭を撫でてくれる。時々性格悪いけど、基本的には良き兄さんだ。妙な含みは知らぬふりをしよう。

「げっ、イズ、その魚取ったのか」
「あ、これですか?赤いのはわたしで、白いのはイゾウさんです」
「お前、この魚知ってるか?」
「雑食の海水魚ですよね?」
「…飼う気か?」
「何でも食べるならいけるかなって思ったんですけど…サッチさんのとこから、いらないもの貰えたりしません?」
「それはいいけどよ…指食われねェように気をつけろよ」
「はあい」

お許しが出た。わーい。共食いしないように気をつけよう。

「イズル、楽しそうだね?」
「楽しいです。金魚すくいも射的も初めてしました」

金魚じゃなかったけど。これ全部、イゾウさんのお陰なんだな。気がつけば、わたしの身の回りはイゾウさんばっかりだ。

「イズルも踊ってくれば?」
「え、一人で?きつくないですか、それ」
「ゾノが一緒に行ってくれるって」
「えっ」
「…ゾノさん困ってますけど」
「へェ?ゾノ困ってるの?」
「…いえ」

あっ、可哀想。それは可哀想じゃないですか、ハルタさん。別に言ってくれれば席外すのに。ゾノさんごめん。

「大丈夫ですか?」
「まァ、いつものことだ」
「御愁傷様です」

苦労人だなあ、この人も。他人事で申し訳ないけど。



***

「で?結局、手は出したの?」
「あァ?」
「はは、イズには見せらんねェ顔だな」
「イズルの様子見てればわかるけどね」
「まさか不能にでもなったか?」
「…死にてェらしいな」
「ちょっと、こんなところで銃出さないでよ」




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