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美味しい。屋台の食べ物って何で美味しいのかな。何か、雰囲気の味がする。
ふ、と目に入ったのは金魚すくい。坂を上がる途中にもあった。ヨーヨー釣りとかスーパーボールすくいとか。子供が群がってるから、何となく目を引く。射的とかもあるのかな。イゾウさん得意そう。

「やってくか?」
「船で飼えないから大丈夫です」

やったことないしね。にしても、どっから連れてきたんだろう。此方の金魚って、やたら大きかったりしない?

「えっ、ちょっ、やりませんよ?」
「覗くくらいいいだろ」

人の往来から外れ、屋台の前に置かれた桶を覗き込む。これは、また…色鮮やかな。赤とか黒以外に、青とか黄色とかピンクとか。ペンキで塗ったような蛍光色。流石にサイズは小さいけど。

「よォ、嬢ちゃん。やってくかい?」
「ごめんなさい、見てくだけ」
「幾らだ?」
「イゾウさん、やるんですか?」
「やらねェ」
「は?誰がやるんですか?」
「やらねェのか?」
「…やります」

屋台のおっちゃんからポイとお椀を受け取って、子供たちに混ざってしゃがみ込む。眺めてるだけで楽しい。というか、活きがいい。じっとしててくれ。初心者だぞ。

「眺めてたって捕まらねェぞ?」
「わかってます」

わかってるけど、やり方がわからん!だってもう、目で追っかけるのでいっぱいいっぱいなんだけど!

「どれがいいんだ?」
「…欲を言えば赤いのがいいです」
「なら、そこの…緑の後ろにいるやつ狙ってみな」

緑の後ろ?これ?思い切って水に沈めたポイは金魚を乗せて、水が跳ねた。

「…ちょっと笑わないでくださいよ」
「イズル下手だなァ」
「うるさいな!初めてなんですよ!」

おっちゃんが笑いながら、もうひとつポイをくれた。何。わたしもう一回やるの?

「すくった後、すぐ椀に入れんだよ」
「…おすすめは」
「あれだな。今こっちに泳いできてるやつ」
「いっぱいいますけど」

どれだよ。というか、何でそんなの見てわかんの。イゾウさんが指差した金魚目掛けてポイを沈める。

「取れた!」
「く…っ、上手いじゃねェか」
「さっきと言ってること違いますけど」

何笑ってんのさ。馬鹿にしてんだろ。でもたぶん、2回目は無理だ。集中切れた。

「もういいのか?」
「満足です」
「ちょっと貸しな」

何だ、やるのか。ポイとお椀を渡すと、わたしと入れ替わってしゃがみ込む。と、同時に、金魚がお椀に入った。今何した。本当にすくった?

「兄ちゃん上手いなァ」
「悪ィな。もらってくぞ」

袋の中で、赤いのと白いのが泳いでいる。え、何で?持って帰るの?面倒見れる自信ないけど?

「どうするんですか?」
「刺身にでもするか」
「…美味しいんですか?」
「冗談だよ。本気にすんな」

そうよな。そもそも食べる身が少ないもんね。食べるとしたら串焼きかな。

「いいんですか?持って帰って」
「こんくらいならどうにでもなんだろ」

本当に?いいの?鉢も何もないんだけど?



***

「あ、サッチ、魚売ってるよ」
「魚?って、金魚すくい?…お前、あれ結構狂暴だぞ」
「そうなの?小さくて可愛いけど」
「雑食だから肉でも何でも食うんだよ。集団で海獣だって襲うんだぞ」
「へェ…見た目に寄らないね」
「あのガキ共、わかっててやってんのか?あんな細い指食い千切っちまうぞ」
「…どんな味なんですかね」
「子供の指が?」
「違います」




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