49


ぽやぽやしている。いや、それを認識できるくらいにはしっかりしている。空気に酔った気配もあるけど、精神面の影響が大きい気がする。

「ふふ、きれい」
「イズがそんなに好きだなんて知らなかったわ」
「好き。大好き。前はそんなことなかったけど、今はめちゃめちゃきれいに見えるの」

湯船の縁に寄りかかって、舞い散る様を眺める。どうにも、儚いという形容詞は似合わない。一昨日もそうだった。丸一日見てても退屈しなかった。

「なんかねえ、イゾウさんみたいだなって」
「桜が?」
「うん」

きれいで、媚びるでもなくて、勝手に咲いて、勝手に散って。でもその勝手な様がどうしようもなくきれいで。…きれいで?

「待って今のなし」
「あら、どうしたの?そのまま続けて?」

振り返れば、姉さんが揃って柔らかな笑みを浮かべていた。待って。やめて違う待って。やめて。

「イズ?どの辺がイゾウみたいだと思ったの?」
「違う!…いや、違うくないけどそうじゃなくて!」
「あんまり否定すると真実味が増すわよ」
「だっ、…」
「そこで素直に黙っちゃうのがイズの可愛いところよね」
「その可愛い顔を、イゾウに見せられないのが残念でならないわ」

やめろ。いなくて良かったと思ってる真っ最中なのに。こんなん聞かれて堪るか。只でさえ、…何かおかしなことになってるのに。

「…ちょっと口が滑っただけなんだってば」
「口が滑って出てくるのは本音よね」
「やめて」
「いいじゃない。わたしたちしかいないわよ?」
「そうだけど…」

そうだけどさ。だからってそんなにこにこしないでよ。そりゃあね。他人事だったら楽しいよ。わたしだって同じことする。同じことするから文句も言いにくいんだけど、やめて。まさかとは思うけど絶対人に、イゾウさんに言わないで。

「本人に言ったら喜ぶわよ」
「やめて。言わないで」
「あら、わたしたちは言わないわ。イズが言うからいいんじゃない」
「…死んでも言わない」

そもそも誰に言うつもりもなかったんだから。ちょっと酔っただけ。もう醒めたけど。醒めたのに、逆上せてる気分。



***

「リリーたち、まだ入ってたの?さっき脱衣所でイズに会ったわよ」
「逆上せたからって、先に上がったのよ」
「あら、一人で大丈夫?」
「どうせイゾウが一緒よ。ねえ、お兄様方?」
「げっ、まじかよ!」
「いつから…っ」
「聞き耳立てるなんて悪趣味ね」
「いつもうるさい癖に、こういう時だけは静かなんだから」




prev / next

戻る