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宴会になった。本当に何しに来たんだこの人。

「まさか酒が飲めたとはなァ」
「…よく言われます」

わたしの隣で、シャンクスさんはご機嫌だ。この人不機嫌になったりするんだろうか。肩に乗った腕が重い。半分もないのに。錘でも巻いてんの?

「なァ、注いでくれねェか?」
「酒は手酌が一番美味しいんですよ知らないですか」
「だっはっはっは、面白ェ!イズルみたいな奴の酌なら倍は美味いと思うんだけどなァ!」
「ハナッタレが…おれの娘に手ェ出してんじゃねェ」
「イズは酌に金取るぞ」
「へェ、幾らだ?」
「あなたの首」
「だっはっはっは、いい度胸してんなァ!」

寄り掛かるな重い。序でに視線が痛い。兄たちの、と言うより、イゾウさんの。大分自意識過剰な気がする。避けるっていうのは、一種の気に掛けるなんだよなあ。

「イズル、あんまりこいつを喜ばせてやんなよい」
「文句言われて喜ぶのがおかしいんじゃないですか」

何かあったなあ。どうでもいい人から好かれる心理。どうでもいいから好かれるんだって。

「よう、シャンクス!」
「うわっ」
「お、エースじゃねェか!元気か!」
「おう!」

背後から出てきたエースさんが、わたしとシャンクスさんの間に入った。グッジョブ!大感謝!

「シャンクスはいい奴だけど、イズはやらねェ!」
「何だ、イズルは随分もてるらしいなァ」
「当り前だろ?おれの大事な家族だ!」

ぐしゃぐしゃと頭を撫でられて、ちょっと嬉しくなったのも束の間。一緒に一言耳打ちされた。前言撤回。恨むぞ。

反論する間もなく送り出されて、どうしても足が鈍る。ちゃんと話した方がいいのはわかってる。けど、どうしろって。でも、態々きっかけ作ってもらって、これを無下にするのも後悔しそうで。

「…どうも」
「どうした?」
「エースさんが、…イゾウさんのとこ行ってこいって」
「…あいつまで妙な気回しやがって」

ああ、一応知ってるんだ。何も言ってこなくなったと思った。

「…あの、」
「イズル」
「…はい?」

俯いて、グラスを眺めていた視線を上げた。いつもより腕を伸ばして、イゾウさんが頭を撫でる。逃げ出したい。だってわたしには向いてない。

「好きだ、イズル」
「…どうも、ありがとうございます」

ぎゅう、と収縮した心臓と一緒に、肺まで小さくなったらしい。どう、どうしろって。恨むぞわたしの22年。何の役にも立たないじゃないか。

「もっとゆっくり伝えるつもりだったんだが、あんまり可愛くて焦った」
「はあ…?」
「自覚しろよ。他の奴らの態度だって変わっただろ」

…まあ。まあ、変わりましたけど。悲しいことに、それを喜べるだけの器量はなかったけど。

「1番隊に移るか?」
「…え、あれ本気なんですか?」
「マルコはそういうことに関して適当なことは言わねェ。移りたいんならいいぞ」
「…移りませんよ。勝手ですけど、それでどうでもよくなられたら傷つく」
「ならねェよ、馬鹿」
「それでも、…自惚れてるみたいで嫌なんですけど、あんまり言いたくないんですけど、何か、イゾウさんを傷つけそうで」

頭を撫でていた手が頬を滑った。いつの間にか下がっていた視線を戻せば、やたらと溶けそうな、目を、緩く細めて。

「おれはその優しさにつけ込むぞ」
「…じゃあ、上手につけ込んでください」

うわ、すごい自分勝手。でもちょっと無理。恋が落ちるものだとか言うんなら、背中から突き飛ばしてほしい。自分で飛び込む勇気はない。

「ごめんなさい。まだ、ちゃんと応えられない。から、もうちょっと、待ってください」
「ゆっくりでいいさ」

何でそんな、…すぐそうやって甘やかす。



***

「で、実際のとこ、イズルとイゾウはどうなんだ?」
「どうもなってねェぞ?」
「…おいおい、おれがイズルと喋ってる間、すげェ睨まれたぞ」
「んー、でもまだ付き合ってるとかじゃねェからなァ」
「イゾウがあんだけ甘い顔してんのにか?」
「すげェだろ。この前イズが捕まった時なんか、鬼みたいな顔してたぜ」
「へェ…でもまァ、今ならイズルもフリーってわけだ」
「シャンクスにはやらねェ」




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