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空は快晴。所により恐々。何言ってんのかよくわかんないと思うけど、わたしもよくわからない。 「赤髪だァ!」 甲板で日向ぼっこしていたら、見張りの兄がそう叫んだ。アカガミって、…赤紙?召集令状?そんなのあるの? 「お前は中入ってろい」 「はあい?」 お疲れ顔のマルコさんに言われ、船内に入る。敵襲とは言わなかった。し、臨戦態勢ともちょっと違うみたい。 「おう、どうした?」 「赤紙?だって」 「へェ!あの野郎も暇な奴だな!」 野郎なんだ。てことは人か。ラクヨウさんが楽しそうに甲板へ出ていく。出て行って、戻ってきた。 「イズも試してみるか?」 「は?何を?」 「赤髪の覇気」 「破棄?えっ、ちょっと」 マルコさんに中入ってろって言われたんだけど!あんたいっつもそうな!本当に人の話聞かないんだから! 引っ張り出された甲板は、妙に張り詰めていた。ぴりぴりする。総毛立つってこういう感じだろうか。 「覚悟しろよ。やべェのくるぞ」 「…」 それは、わかる。何か足元から這い上がってくる。空気の読める日本人だ。あんまり上手じゃなかったけど。 その、真っ赤な髪が見えて、息が止まった。音が遠い。瞬きひとつできない。いっそ目を瞑ってしまいたいのに、瞼はぴくりとも動かない。酷く寒くて鳥肌が立つ。機銃掃射ってこんな感じだったんだろうか。いや、知らないけど。目の前に空いた黒い穴が、近づいて来るのを待ってるような。ああ、死ぬんだなって。…死ぬんだなって? いやいやいやいやいや。待って。やだよ。こんなとこで死んでちゃ堪んないよ。見たいものも、やりたいことも、知らないことも、まだまだたくさんあるんだから。わたしは、 「…ォ、し……げ!…んきそ…じゃ…ェか!」 「て…ェ、この…まつどう……て…れんだ…い!」 気がついたら、座り込んでいた。身体中汗びっしょりで、掌には爪の痕がついている。生きてる?…生きてる。何か話してるのが聞こえる気がする。 「おー、無事か」 そう、顔を覗き込んできたラクヨウさんがにやにや笑っていた。無事かって、無事に見えるのか。お前わかっててやったな。 「ふざけんな!無事かって無事じゃねェわ!死ぬかと思った!」 「だはははは!でも死んでねェじゃねェか!お前すげェな!」 「あんたいっつもそう!人の話を聞け!わたしを慮れ!」 「んな難しいこと言われたってわかんねェよ」 体の震えが止まらない。襟を破れんばかりに引っ掴んで、揺すっても揺すっても笑うばかり。何なら、揺すった反動でわたしの手が外れそうだ。ふざけんなよ。死ぬとこだよ。笑い事じゃねえよ! 「何でこいつがここにいんだよい」 ふ、と影が差した。怒っている。怒っているけど、わたしも怒っている。だってわたしの所為じゃない。 「こいつがわたしを引っ張り出した!」 「すげェだろ!ちゃんと意識あんだぜ!」 「あんたの功績じゃない!勝手に誇るな!」 「いやいや、おれが引っ張り出したからこそだろ?正直、無理だと思ってたけどな、」 「ラクヨウ」 あっ、温度下がった。いけ。やれ。とっちめてしまえ。 「お前いい加減にしろよい」 「…うっす」 「お前も中戻ってろ」 「…無理」 「あ?」 「…足立たない」 「あァ…」 あーだよ、本当にこの野郎。恥ずかしいったらないわ。こんな目に遭ったんだから、ちょっとくらい優しくしてくれてもいいんじゃない?いいと思う。甘いもの食べたい。 「おい、イゾ、」 「待って待って待って!立つ!自分で動くからそれだけは止めて!」 「…まだ拗れてんのかよい」 「まだって何ですか」 「おれが運んでやろうか?」 「あァ、任せ…あ?」 ひょい、とマルコさんの後ろから、真っ赤な髪が覗いた。赤髪。かみって髪ね。さっきの死ぬような思いは殆ど絶対この人の所為だと思うけど。その人懐っこそうな笑みからはその残滓すら感じられない。怖。二重人格? 「女の子がいるとはなァ…悪かった!」 「…謝っていただかなくて結構です。こいつの所為なので」 「おいおい、兄貴を売り飛ばす気か?」 「自業自得だわ。ちょっとは反省しろ」 「はは、気の強ェやつだな!」 しゃがみ込んだ赤髪が、わたしを軽々持ち上げた。この人もわたしを女児か何かだと思ってる。 「あれで意識あるってのはなかなかのもんだ。お前、うちに来ねェか?」 「やらねェ」 「おう、ならマルコも一緒にどうだ?」 「行かねェよい!」 何、この人。誰。何してる人。うちってどこよ。 「失礼ですけど、どちら様ですか?」 「あァ、おれはシャンクス。お前のオヤジと同じ海賊だ」 はあ、さいですか。うちに来いって、要するに引き抜きね。何考えてんのか知らないけど、行かねえわ。 *** 「イゾウ、行かなくていいの?」 「…あァ」 「ふふ、何か避けられてるんだって?良かったじゃん、意識してもらえて」 「嬉しくねェな」 「だよねー。でも、そうやって余裕かましてたら逃げられちゃうんじゃない?」 「逃がすわけねェだろ」 「…もしかしたら、赤髪に横取りされちゃうかもね?」 「あの野郎…」 「そんな顔すんなら行ってくればいいじゃん」 |
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