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納得いかない。例えばわたしが荷物を運んでいる時の話をしよう。

「おー、イズ頑張ってんなァ。これも頼むわ」

いつもならこう。別にそれで文句はなかった。いや、あったけど。文句はあったけど、それで良かった。

「…あー、イズ。それ運ぶからこっちに寄越せ」

最近はそんなことを言い出す輩がいるんですけど何でですかね!あの姉さんに遊ばれた日からやたらと女の子扱いされるんですけど!今更?魂胆というか、何か透けて見えるんですけど?

「…納得いかない」
「そう言ってやるなよい」

お昼時。いつもならロハンさんたちだったり、雑用を手伝った他隊の兄さんだったりと食べてるところ、今日はマルコさんと一緒だ。偶々見つけた。マルコさんからすれば白羽の矢だろう。どんまい。

「で、何で今日はあいつらと一緒じゃねェんだよい」
「…生温い目で見てくる」
「はあ?」

イゾウさんから、…あれは何だ。言い寄られたであってるのか。取り敢えず、何かこう、色々言われて、気まずくなった。わたしが勝手に。だって応え方なんか知らない。半端なことはしたくないけど、断るにも受けるにも振り切れない。そもそも好きとは言われてない。

その辺がどう伝わったのか伝わってないのか知らないが、兄さんたちが妙な気を回すようになった。イゾウさんへの報告をわたしに行かせようとするとか。さっきどこそこでイゾウさんを見ただとか。イゾウさんが何が好きだとか。知るか!がんもどきは美味しいけど!

「ちょっと、面倒くさいことになってるんです」
「イゾウに告白でもされたか?」
「されてません」
「何だ、まだくっついてねェのかよい」
「は?」

待て。まだって何だ。まだって。

マルコさんはもう食べ終わって、わたしはまだ半分。それでも、一応話には付き合ってくれるらしい。わたしもゆっくりだけど、早食いは体に悪いんですよ?わたしの倍以上食べてますよね?

「見てりゃわかんだろい。イゾウはお前に惚れてる」
「…別にわかりませんし、それをマルコさんから聞いたところでわたしはどうにもできませんが」
「なら、イゾウから聞いたらどうすんだよい」
「…どうにもできないから困ってるんです」

ていうか言っちゃう?この前の一件で何となくその可能性も浮上したことはしたけども。八割は揶揄って遊んでると思ってるよ。今でも。だってそういうの楽しいのわかるもの。やったことないけど。

「おれんとこに来るか?」
「…1番隊ですか」
「あァ」

それは、…それは楽だ。たぶん、すごく。そのまま関わる回数が減って、そのうちどうでもよくなるかもしれない。けど、それは。それはイゾウさんが傷つくんじゃないだろうか。…自惚れている気がする。それでどうでもよくなられたら、傷つくのは自分か。

「どっちにしても、イゾウに目ェつけられた時点でイズルに逃げ場はねェ。諦めろい」
「何ですか、それ。そこまで執着します?選びたい放題でしょう、あの人」
「…お前、スルーザに捕まった時あいつの顔見たか?」
「いいえ。自分のことで手一杯でしたもん」
「はあ…あれに気づかないお前も、相当鈍いねい」

んなこと言われても…。大体、何に何を思ってたかなんて本人にしかわからないじゃん。




***

「お前が手古摺るなんて珍しいねい」
「何の話だ」
「イズルだよい。持て余してんなら、うちで貰ってもいい」
「あァ?」
「逃がしたくねェんなら、ちゃんとけじめつけてやれよい。他の隊員も、妙な気遣いしてるみたいだからねい」
「…ご忠告どうも」




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