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父さんは、飛び込んできたわたしを見るなり目を細めて笑った。くっそ、恥ずかしいわ。めかし込んでどうしたって。姉さんの仕業です。

「可愛いじゃねェか。兄貴にも見せてやんな」
「絶、対、嫌」
「あらあら、折角可愛いのに」
「リリーたちの腕は確かよ?とっても似合ってる」

一緒にいたイリスさんもメルシエさんも皆して、何でそんなに見せたがるのさ。恥ずかしくって、もう本当に恥ずかしくって泣きそう。

「イズったらもう、走って行っちゃうんだもの」
「あ、ほら、髪乱れてる」
「すれ違ったお兄さんはイズって気がついてなかったわよ?」
「…それはそれで腹立つ」

追いついてきたリリーさんたちが、わたしの髪を直しながら楽しそうに話す。気づかれるのも嫌だけど、別人と思われるのも嫌。我が儘と言われようと嫌なもんは嫌。

「じゃ、次は食堂に行きましょ」
「えっ、やだ。絶対やだ。何人いると思って、」
「イズ」
「…何?」

エルミーさんがにっこり微笑む。好きよ。笑ってる顔。好きだけど、嫌な予感しかしない。聞きたくない。

「写真をばら撒かれるのと、今から見せに行くのどっちがいいかしら?」
「カメラあんの!?」
「ええ。カメラくらいうちにもあるわ」
「リノン辺りが持ってるんじゃない?」
「あの子すぐ改造するから…無事だといいけど」

なっ、んで、今までそんな素振りなかったじゃん!リノンさんて船大工のあの人でしょ。何でそんな物持ってるのさ!

「嫌だ!写真嫌いだもん。撮るのはいいけど撮られるのは嫌!」
「なら、見せに行くしかないわね。行くわよ」
「父さんに見せたんだからいいじゃん!」
「駄目よ。ちょっと化粧したくらいでイズがわからないなんて、わたしたちだって腹が立つもの」

…よくも!よくもすれ違ってくれたな!末代まで恨むからな!



***

「お前見た?」
「見た」
「何つーか、化けるもんだな」
「おれ一瞬わかんなかったぜ」
「こう、思ったより細くてよ」
「胸とかもちゃんとあったな」
「やっぱ脚だろ。おれ、あいつの生足初めて見たぜ」
「…お前ら何の話してんの?」




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