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部屋の中を見て思った。どっちも一緒じゃん。姉さんたちは父さんのとこって言ってたもんね。さっぱり思い至らなかったんだから、わたしは結構てんぱってたらしい。

「イズ!?」
「あ、大丈夫。何ともないから」
「何ともないのにマルコが抱えてくるわけないでしょ!」
「…内緒」
「マルコ、何があったのかしら?」
「イゾウとサッチがちょっとねい」

ずるい!マルコさんもすぐ喋る!
父さんの傍の、幾つか積まれた箱の上に降ろされる。父さんと視線が近い。新鮮。その父さんはにやにやしながらわたしを見ていた。なあに?何か嬉しそうね?

「敵船の船長を倒したって?」
「…そんな大層なものじゃ、…ないと思いますけど」
「グララララ、リリーたちから聞いてる。流石はおれの娘じゃねェか」

…偶々と偶然と幸運が重なっただけなんだけど。でも褒めてもらえるのは嬉しい。

「怪我の具合はどうだ?」
「大丈夫です。たぶん、皆が思ってるよりも元気」
「ならいいが…あんまり無茶はするんじゃねェぞ」
「はあい」

無茶。無茶か。まあ、無茶だよな。人を殴ったこともないのに、何か誰かと戦おうなんて。そんなこと言ってたら、一生何にもできないまんまだけど。

「イズ、お客さんが来てるわよ」
「…?あ、イゾウさんとサッチさん?」
「ええ。入れても大丈夫かしら?」

それ、わたしにって言うか父さんにじゃないの?もしくはマルコさん。二人を振り返っても笑みを浮かべて素知らぬ顔をする。取り敢えず頷けば、リタさんが扉を開けた。流石にばつが悪そうだ。

「末っ子怯えさせる奴があるか、アホンダラァ」
「面目ねェ」
「悪かった」

父さんの一喝に、揃って素直に謝罪を述べる。ふふ、この二人が怒られてるって変な感じ。いっつも怒る側だもんね。

「イズル、どうする?」
「はい?」
「処分はお前に任せるよい」
「わたし?」

処分て。そんなこと言われても。こんなことで。別に誰が怪我したとかでもないのに。そもそも、人に指示を出すような器はないし。

「…別にいいです。今いいもの見せてもらった気がします」

そう言って見下ろせば、サッチさんは首を摩って、イゾウさんはそっぽを向いた。ふふ、たーのしいー。

「優しいねい」
「そうですか?そこそこ性格悪いと思いますけど…、あ」
「ん?」

にっこり。どんな顔で笑ってるか、自分じゃわからないけど。自分は関係ないと思ってるんだろうなあ。可笑しい。

「マルコさんのことも、ちゃあんと覚えてますよ?」
「…よい」

あは、やっぱり覚えてるんだ。随分前な気もするけど。どの隊に振り分けるか話した時のこと。わたしはちゃんと根に持っている。ねえ、イゾウさん?

「何の話だ?」
「マルコさんとイゾウさんで、わたしを脅かして楽しそうにしてた話です」
「…お前ら何やってんの?」
「おれは何もしてねェ」
「イゾウさんは後ろにいるの知ってた癖に」
「…お前ェら、程々にしやがれ」
「よい」「はい」「…」

待て待て待て。一人返事が聞こえなかったけど。ねえ、ちょっと隊長!



***

「…本当におっかねェったらねェぜ」
「泣くかと思った」
「お前が?」
「イズが、だよ!おれが泣くわけねェだろ!」
「とか言って、結構びびってただろ」
「…っ、当り前だろ!隊長同士の喧嘩なんか手に負えねェよ!」
「あァ、それは同感だな」
「正直言うと、おれはちょっと見たかった」
「隊長たちの喧嘩か?」
「モビー半壊じゃ済まねェぞ」
「いや、違う」
「何だよ」
「…イズの泣き顔」
「……同意したいが、おれはまだ死にたくねェ」




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