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怒っている。顔に書いてある。何でよ。どれによ。空気がぴりぴりするんだわ。 「イズル、こっち来い」 「え、嫌です。怒ってますよね」 「怒ってねェ。いいから来い」 怒ってるんだってば!雰囲気が!今回わたし何も悪くないぞ!別にわたしが自分から捕まりに行ったわけじゃない。 部屋としては広いけど走り回るには狭い食堂の中、緊張感と一緒に立ち尽くす。間には机が三つ。一気に詰めてきそうだけど。 「イズル」 「だって、今回わたし悪くなくないですか?そりゃ、迷惑かけてごめんなさいだけど、そもそも敵襲が遭ったのだって知らなかったし」 「だから、怒ってねェって言ってんだろ」 「空気が怒ってるんですってば!」 食堂に居合わせた兄が何人か、気の毒そうに見ていた。もう何人かは楽しそうにしてる。この野郎助けろ。薄情者。 焦れたのか、舌打ち一つ。たぶん絶対、それ苛々してる時しかしないでしょ! 「えっ、それ反則!」 「んなもんあるか」 間には机が二つ。別にそんな小さいわけじゃない。それを易々と乗り越えて、最短距離を詰めてくる。役に立たないな机!踏んでないのは流石です! 咄嗟の判断で、出入り口に向かって走る。折角サッチさんが何か冷たい物くれるって言ってたのに! 「おいおい、食堂で運動会するんじゃねェよ」 「サッチさん助けて!」 壁まで走って振り返る。捕まると思った。だって、すぐそこ目一杯にいるような気がしてた。のに、間にサッチさんが割って入ってる。何あれ。どうやったの。厨房にいなかったっけ。 「おい、邪魔だ。どけ」 「まァまァ、可愛い妹に頼られちゃァな?お前もちょっと落ち着けよ」 「うるせェな」 「うるせェじゃねェだろ。だから落ち着けって言ってんだ。イズびびらしてどうすんだよ」 「あいつがこんなもんでびびるかよ」 …あ、どうも。確かにそのくらいじゃびびらないけど。…なかったけど。今は、…ちょっと怖い。 「怪我してんだよ。お前が走らせてどうする」 「…わかってんだよ、そんなもん」 「わかってねェだろ!」 「わかってるっつってんだろ!」 待って。待って、ねえ、ごめんなさい。ちゃんと話聞くから。ちゃんと話聞くから止めてよ。何でそんな怒ってるの。 「お前ら、殺気撒き散らして何やってんだよい」 すぐ隣で扉が開いた。空気が入れ替わって、すとん、と脚から力が抜ける。 「おい、大丈夫か」 「…だいじょぶ」 上腕の肩に近い所を掴まれて、支えられても立てない。嘘でしょ。腰って本当に抜けるの。察したのか、マルコさんが軽々わたしを抱き上げた。情けないわ恥ずかしいわで散々だな。 「喧嘩すんのは勝手だが、時と場所を考えろい」 「まっ、待って。マルコさん待って。ちゃんと、イゾウさんの話聞くから」 「んなもん後でいいよい。お前らは頭冷えたら船長室だ」 静かに扉が閉まった。すごい。まだ体が強張ってる。 「…ごめんなさい」 「あ?」 「わたしがちゃんと話聞かなかったから?」 「放っとけ。イゾウが勝手に苛々してるだけだよい」 「…どこ行くんですか」 「あー、ナースんとことオヤジんとこ、どっちがいい?」 「…父さんのとこ」 「ならそっちにするかねい」 あんな、初めて見た。姉さんには、ちょっと言いたくない。 *** 「くそっ…」 「お前何で食堂にいんだよ。頭冷やすっつってたろ?」 「水飲みに来たんだよ」 「…びっくりするほど最悪のタイミングだな」 「怪我は」 「首と頬に裂傷。どっちもそんなに深くねェ。腕はどっちも折れてたっつってたが、マルコが治療した」 「…そうか」 「本人はけろっとしたもんだがな」 「だから心配なんだろ。すぐ大丈夫って言いやがる」 |
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