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出航して、…三日くらい?気候海域とやらを抜けて、いきなり気温が上がった日。一人、部屋でへばっていた。気温差で具合悪くなりそう。そもそも暑いの嫌い。
靴も上着も、脱げるものは全部脱いで、肌の露出も構うことなく。タンクトップにショートパンツってこれ以上ない薄着じゃない?エースさんみたいに裸でいるわけにもいかないし。食欲は落ちるし。アイス食べたい。

ぐわん、と船が大きく揺れた。え、何。今やめてよ。酔う。また海獣でも釣ったのかなあ。どうするんだろ。冷たい素麺とか食べたい。
そんなことを考えながら、椅子の座面に凭れ掛かっていた。そろそろ移動しないと。この床も温くなってきた。

「ガキがいるなんて、お誂え向きじゃねェの」

うえっ、びっくりした。何。誰。鍵かけてんだけど。振り返って更に混乱した。いや、まじで誰。この船の人じゃなくない?違うよね?

椅子の背を掴んで立ち上がって、その辺に立ててあった鋏を探す。もうちょっと広かったら、椅子も振り回せたかな。流石にそれは贅沢か。武器は取られたらやばいって言ってたけど、これもうどうにもならないよね。イゾウさん怒んないでね。

「…どちら様ですか」
「おれはグリーン海賊団の船長、スルーザだ」

あ、そう。ご丁寧にどうも。知らない人じゃねえか。だからそんな、真緑の服着てんの?ちょっと趣味悪くない?

「鍵、かけてた筈なんですけど」
「あァ、おれが食ったのはスルスルの実。ありとあらゆる隙間をすり抜けられるのさ」

す、…何だって?何を食べたって?隙間をすり抜けられるって、何で?どうやって?一反木綿みたいな感じ?

「それで、余所の船長さんがこんな所に何用ですか?」
「それがなァ、白ひげ海賊団は手強くてなァ…何か弱みになりそうなもんを探しててなァ…」
「あ、じゃあ余所へどうぞ」
「おー、そうか」

よっしゃ。行け。そのままどっか行け。姉さんたちは父さんの所にいるって言ってた。具合悪くなる前に来なさいって。今めっちゃ具合悪いんだけど。背中を伝ったのは、たぶん只の汗じゃない。

「って、いやいや。目の前にいるじゃねェの」

あーっ、もう!この野郎、どっか行けよ!スルーしてくれよ!スルスルの何とかなんでしょ!

「…っ、」
「こんな鋏一本でどうにかなるとでも?
「どうにもなんないなら持たせてくれてもいいんじゃないですかね」
「うん。それも一理ある。でもダメ―」

捕まれた手首が痛い。緩んだ手から落ちた鋏が、軽い音を立てた。この野郎一理あんなら許可しろや!別にこんなんで、逃げ切れると思ってるわけでもないけどさ!

ぐっ、と引っ張られて、気がついたら甲板にいた。え、すごいな。何だ今の。

「ちょっと、人質ならもっと丁重に扱っていただけます!?」
「君威勢いいなァ。それに、見た目より随分賢いみたいだ」

うるせえ余計なお世話だ。後ろ手に纏められた腕が痛い。そんなに握るな折れる。何が嬉しくてこんな、こんな情けないとこ曝さなきゃなんないのさ。



***

「なァ、イズどうした?」
「部屋でへばってるってさ」
「あー、暑ィの駄目なのか」
「らしいな。飯もあんま食ってなかったし」
「あんな小せェのに、食わないでどうすんだよ」
「本当だよな。お前の食欲を分けてやりたいぜ」
「んー…じゃ、肉食わせてやろうぜ」
「食えるか」




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