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お祭り騒ぎは結局お祭りになったらしい。昼間っから酒飲みばっかり。騒いでいる所に誰かが店を出し、つられて誰かが店を出し。商魂の逞しさは何処へ行っても変わらないのかもしれない。即席感は拭えないけど。出てる店、出てない店、元々路面に構えてて明らかに張り出してる店。それはそれで、ごちゃっとしてて楽しい。

「屋台の食べ物って何で美味しいんですかね」
「サッチの飯とどっちが?」
「…玄人と比べちゃうと、ちょっと」

道の端に寄って、たこ焼きを食べている。サッチさんならもっと美味しく作るのかもしれないけど、それとこれとは別。これはこれで、やっぱり美味しいと思う。一つ差し出したらイゾウさんが口を開けた。一口。熱くないんだろうか。

「…、まァ、屋台のもんはその時しか食えねェしな」
「たぶんそれですね」

イゾウさんがもう一つとでも言うように口を開けた。餌付けでもしてる気分だ。何だかんだ言いつつお気に召している。もう一度聞くけど熱くないんですか。…間違えた。自分で食べないんですか。

空になった器を通りがかりのごみ箱に捨てて、ゆるゆる歩く。見知った顔が見知らぬ顔と肩を組んで酒を飲んでいる。楽しそうで何より。何よりだけど意志の疎通ができてるかは知らない。たぶん相手は片言だと思う。

「あっ、イズル!いらっしゃーい」
「すごい既視感」
「無視して行くか?」
「…いえ、食べたいです」

マスターと奥さんとルーカ。屋台ではなく、店の前に机を出している。何を出してるかは知らないけども、奥さんの手料理で外れるなんてことはないと思って。

「今日は何ですか」
「唐揚げ!幾つ食べる?三つ?」
「…一つに幾つ入ってるの」
「十個くらい!」
「待て待て、十は入らねェぞ」

マスターに制止されつつ、ルーカは器に八つ入れた。揚げたての音がする。いや、そうじゃなく。一個が拳半分くらいある。

「イゾウさん半分こしません?」
「いいぞ」
「遠慮しないでいいよ?マスターの奢りだから」
「おう。うちの唐揚げは冷めても美味い」
「いえ、遠慮じゃなく。食べきれません」
「じゃあ、お土産に包んでおくわね」

いや違うそうじゃない。奥さんまでねじを飛ばさないでほしい。差し出した代金はイゾウさんに盗られ、財布の中に帰ってきた。それをにこにこしながら見ているお三方。本気で代金は要らないんですか。そこまで何かしたつもりはないんですが。

受け取った器には楊子が二つ。楊子一つで支えきれるか不安なくらい立派だけど。普段のご飯だって、この大きさの唐揚げ四つも食べれば、…美味しいな。米が欲しくなるな。

「イズルって、たぶん何か持ってるんだよね。すごくいい時に来るもん」
「何が?」

にっこり笑ったルーカと、にやにやするマスターと、にこにこしてる奥さんと。イゾウさんは目が合うなりわたしの頬に掛かった髪を指先で退けた。こんなにいっぱい笑顔があるのに、皆違う。けど、含んでいることは大体同じだろう。たぶん。後ろ髪を梳いて、イゾウさんの視線がゆっくり背後へ反れる。しょうがない。気になってあげよう。



***

「♪Janaganamangaladāyaka jaya he Bhāratabhāgyavidhātā〜」
「めでてェめでてェめでてェなァ、っと」
「…お前そいつが何言ってるかわかんのか?」
「いや、わかんねェ」
「あァ、だよな…安心した」
「ワタシわかルよ!」
「うおっ、おま、びっくりすんだろ!」




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