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あってないような報告もそこそこに、自室。布団の上。視界は横。背後にイゾウさん。わたしがこの人に抗えたことなんか一度もない。…あ、いや、一回だけあるか。ベイさんとこに行ったの、と、もしかして今回もそうか。でもちょっとその辺は別口だ。

「イズル」
「…眠たいんじゃないんですか」
「眠いが、気になって眠れねェ」
「何がですか」
「おれに何か隠してねェか?」
「…わたしがイゾウさんに?」
「隠してねェなら、言ってないことだな」

言ってないこと…?それこそわからんが。そりゃ、いつラクヨウさんと言い合いになったとか、ロハンさんと何したとか。何でもかんでもは言ってないし面倒くさくて言ってられないんだが。…いかん、眠たくなってきた。

「…特に、思い当たりませんが」
「隠したいこともねェな?」
「うん…?」
「なら、リリーに聞く。気にすんな」
「リリーさん…?」

おっと?何か今引っ掛かったぞ?リリーさんに、イゾウさんに隠してること。言ってないこと。イゾウさんに言わないでって言ったこと。

「…あー」
「どうした?」
「あの、あります」
「何が?」
「…イゾウさんに内緒にしたいこと」

分かっててそういう聞き方する。意地悪い。腹に回っていた腕が絡みついてお腹と背中がくっつく。イゾウさんのお腹と、わたしの背中。

「…言えよ」
「嫌です」
「イズル」
「嫌です」
「…イズ」
「い、…嫌ですってば」

だって。言いたくない。わたしの為に。イゾウさんが嫌な思いしてるのをわたしが見たくない為に。そんな呼び方されたって嫌なもんは嫌。嫌だってば。抱き締められたって擦り寄られたってやだ。

「…それは、イズルが黙ってることでおれが喜ぶことか?」
「はい?」
「いつかイズルがそれを明かした時、おれが喜ぶことか?」
「明かす予定はないんですけど」
「イズルがどうしても言いたくねェんならそれでもいい。が、おれの為に黙ってんなら言え。今すぐ」
「…別にイゾウさんの為じゃないです」
「言ったな?リリーに確認するぞ」

…。そんなこと言ったって。嘘はついてないけど。リリーさんが何て言うか。どこまで言うか。だって今勘づいてるのだって、もしかしてリリーさん発じゃない?言わないでとは言ったけど、勘づかせないでとは言ってない。

「…どうぞ」
「…」
「言わないって言ったら言わない」
「…おれが知らない所為で、イズルが苦しい思いをすることは?」
「ないです」

腹に絡んでいた手が一つ、わたしの手を掴んだ。指が絡んで、握って、握り返す。ごめん。でも言いたくない。



***

「つまり、何だ?イズがいなくなるかもしれなかったってことか?」
「…あァ、そうらしい」
「それはイゾウじゃなくても怒るよね。何の挨拶もなしに、…挨拶されたって嫌だけど」
「どうせ本人はけろっとしてんだろ?」
「グラララ…あァ、何ともねェような面してたなァ」
「馬鹿が…次もそうとは限らねェだろい」




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