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えらい騒ぎになっていた。町が。何となく騒がしい気がしてたけども見事にお祭り騒ぎになっていた。神社さんを出た所で盛り上がっていた外人さんに抱きつかれそうになって、イゾウさんが割って入ったくらい。結局イゾウさんが抱きつかれることになったんだけども。そんな顰めっ面しないであげてよ。

「何事ですか」
「いなくなってた奴らが戻ってきたんだと」
「いなくなってた?」

一人戻ってきたロハンさんの言葉に周囲を見回す。確かにお帰りだの何だの言ってるけど、言葉は混じるわうるさいわでよくわからない。イゾウさんはまだ顔を顰めていらっしゃる。

「…あいつが何かやってたんだろ」
「それいつの話ですか」
「忘れた」

この…黙ってたな、この野郎。言われてみれば皆さん何かそわそわしてたわ。イゾウさんに気を取られていた。あっ、睨まれたのそれか。

「姉ちゃん!海賊の姉ちゃん!」
「…」
「おい、イズのことだろ?」
「イゾウさんじゃないですか」
「…流石に無理があんだろ」

流石にも何も無理でしょうけど。何さ、海賊の姉ちゃんて。早急に呼称の改善を要求したい。いや、合ってるんだけど。

「姉ちゃん!と、兄ちゃん!あんたらのお陰だ!どうしたら…また飯食いに来い!な!」
「何の話ですか」
「イズルたちのお陰で帰って来れたんだって」
「はあ?」

後ろからひょっこり、ルーカが顔を出した。その隣では奥さんがぼろぼろに泣いている。何のこっちゃ。意味もわからず感謝されるのはちょっと大分気持ちが悪い。イゾウさんは素知らぬ顔でロハンさんと話している。ちゃっかり手は繋いだまま。まだ半径80cmにいなくちゃ駄目?

「おれは、もしあんたらがいなかったら、二度と会えなくなってた。…まあ、中には行っちまった人もいるかもしれないが」
「ルーカ、解説して」
「おれだってわかんないよ。マスターがいきなり医務室に入ってきてさ。感動の再会の最中に横槍入れらんないじゃん」
「もう感動の再会は終わってるみたいだから横槍入れて」
「イズル」
「はい?」

名前を呼ばれて、手を引っ張られて振り返る。憑き物が落ちたような顔で、それでもちょっと眉を顰めて。

「帰る。眠ィ」
「また寝てないんですか」
「寝てられるか」
「何をそんなに…どうぞごゆっくりお休みください」
「イズル」

くん、と引っ張り寄せられて距離が縮まる。密着一歩手前の、逃げ出したくなるような距離。頭の真上にイゾウさんが擦り寄っている。

「…あの」
「よく眠れたか?」
「はい?」
「おれがいなくて」
「…寝れてますが」
「熊じゃおれの代わりにはなんねェだろ」
「猫です」

…だって帰ってこないから。一人で寝ると妙に布団が広くて。だからって眠れてなくないが。

「どっちにしてもオヤジに報告はいるだろ。帰るぞ」
「…はあい」

横目に見たら、マスターは見知らぬ誰かと抱き合っていた。ロハンさんは既に散会か解散かしている。報告。報告ね。何て、どうしようかね。

「イゾウさん」
「ん?」
「わたし刺青入れたい」

わたしの手を引いて、参道を降りていたイゾウさんが足を止めた。振り返った顔は柔らかいようで、少し強張っているようで。言葉を探すように口がゆっくり開いた。

「…刺青を?」
「はい」
「イズルに?」
「わたしに」
「…」

何とも言えない顔をして、視線を空に逃がした。間違っても喜んではない。喜んではないけど、反対するにできないような。わたしが父さんの印を背負ったら駄目だろうか。エースさんみたいに、見せびらかす趣味はないんだけれども。

「反対はしねェが、刺青ってのは一生消えない傷みたいなもんだ」
「知ってます」
「…それでも入れたいってんなら、外から見えねェとこにしな」
「…骨とか?」
「そいつは船医の腕次第だな」

入れられるのか。骨に。驚いていたら、冗談だ、と苦笑いされた。でも見えない所に入れても意味がない、わけじゃないけど、わたしから見えるところがいい。



***

「…何だったんだよい」
「いや、マルコ隊長にわからないことをおれがわかるわけないじゃないっすか」
「あー、まァ、イゾウの機嫌が戻ったんなら一件落着じゃねェの?」
「流石にびっくりしましたね。島が沈められるんじゃねェかと…」
「その前にマルコが飛んでっただろ」
「馬鹿言うな。そん時はてめェも道連れだよい」




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