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暑い。暑いけど、まあまあまあまあまあ、我慢できなくはない。暑いけど。 「今回は飛び込まねェのか?」 「…流石に。安全が確認できないんで」 「イズも大人んなったなァ!」 「幾らわたしだってそこまで無鉄砲じゃないですよ!だってこんな、」 真っ赤な海。空は青い。赤いのは海だけ。わたしの目がおかしくなったわけじゃない。今回に関しては、体感よりも視界が暑い。 「安心しろよ。別に有害なもんじゃねェ」 「飲んじまったら、しょっぱいじゃ済まねぇけどな」 「あとひりひりする」 「それ有害って言うんですよ」 些かの呆れと一緒に、兄さんたちの後を追って上陸する。定期的、と言うほどではないけれど、比較的頻繁に寄航する島らしい。年に一度は必ず。何でも、貴重な香辛料が手に入るとか。その香辛料が海に流れて真っ赤になってると言うんだから、一体どれほど貴重やら。怪しいと言うか、疑わしいような気もするが。 「おーい、イズ!行くぞ!」 「はあーい!」 呼ばれて駆け寄った相手はサッチさん。今日は4番隊と一緒。16番隊は買い出し。まあ、わたしが買い出しについてっても役に立たないからね。 「イゾウと一緒じゃなくて良かったのか?」 「四六時中一緒にいたら、お互い息が詰まるじゃないですか」 「…イズはそーいうとこ淡白だよなァ。一年近く離れてたわけだろ?こう…寂しいっ!とかねェの?」 「サッチ気持ち悪い」 「同意。わたしがそういうタイプに見えます?」 「いや、見えねェけど、しれっと毒吐かないでくんね?」 おっと、失礼。つい口が滑って。というか、一緒の部屋で寝起きしてるのに、まだ寂しいってどういうことよ。もうくっついてひっついて、お腹と背中みたいになるしかないんじゃないの。 「サッチ隊長の言い方は兎も角、本当に良かったのか?」 「はい?」 「おい」 「確かに人手があった方が助かるが、どうしても、無理に必要だったわけじゃない。今からだって間に合うぞ」 …はあ。何か、わたしよりも兄さんたちの方が気にかけてるみたいで。なんか全然平気でいっそ申し訳なくなってくるね。いや、全然平気って言ったら語弊があるけど。一緒にいられたら嬉しいけど、一緒にいられなくても、別に。 「今日はこっち手伝うんで、そんなに気にしてもらわなくて大丈夫ですよ」 「そうか…」 「それにイゾウさんと別行動してると、ただいまとおかえりができるから嬉しい」 「…何だって?」 …しまった。やっぱ言わなきゃ良かった。ちょっと気まずくなって視線を逸らす。暑くて脳の回路が馬鹿になってたのかもしれない。そんなに引っ掛かられるとも思ってなかったけど。 「何でもないです」 「イズから惚気を聞く日が来るとはなァ…」 「そういうのじゃないです」 「イゾウ隊長に言ったら喜ぶんじゃねェか?」 「やめて」 その生温い視線と一緒に口を閉じろ。ちょっと。この前ので味を占めてしまった節はあるんだ。イゾウさんにおかえりって言われるのは、結構嬉しい。 「なァ、イズ。今日の働き次第で黙っててやるってのはどうだ?」 「はい?」 「おれより多く集められたら黙っててやるぜ?」 「無茶じゃないですか!」 「なら、問答無用でイゾウに報告だな」 にまにまと笑みを浮かべたサッチさんが、さっきの仕返しとでも言うように宣う。ゾノさん、やれやれじゃなくて止めて。あなたも共犯だから。 「…ルーカ手伝って」 「勿論」 「ゾノさん」 「ゾノはずるいんじゃねェか?ルーカは兎も角」 「ちょっとそれどーいう意味?」 「サッチさんに聞いてません。ゾノさん手伝ってください」 「…あー、その、」 「見捨てます?」 些か過激な言葉を選んで、困り眉のゾノさんを見上げた。絶対ばれたくないんだから、手段を選んでる暇はない。断られたらゾノさんに泣かされたとでも言ってやろう。いや、言わないけど。 「…わかった」 「よっしゃ」 「おいおい、まじかよ」 「ふふ、ありがとうございます」 「いや、まあ…そこまで言われるとな…」 「イズル、おれには?」 「ありがとう」 「頬っぺにちゅーでいいよ」 「イゾウさんに怒られるからしない」 「ええー」 でもまあ、何かしらお礼はしてもいいかなあ。まだ勝ってないけど。何か。何がいいかなあ。 *** 「何だろうな、この気持ち」 「あ?」 「こう、何つーか、妹の成長が嬉しいようで寂しい」 「お前、年食ったんじゃねェの?」 「そうかもしれねェ」 「まァ、あのつんけんしてたイズの口から出てくる言葉じゃねェよな」 「おれたちでサッチ隊長に加勢するか」 「…それ、後からイズに仕返しされたりしねェ?」 |
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