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くらくらする。叱られるのかと思ってやってきたイゾウさんの部屋。ベッドに座ったイゾウさんの膝の上で、ひたすら、…愛?これは、何?

「…イゾウさん。あの、もう、ちゃんとわかりましたから」
「全部聞いてねェのにどうやってわかんだよ」
「まだあるの…?」

可愛い。可愛いと。円らな目が、生意気な口が、柔らかい頬が、髪が、声が。笑った顔が、泣いてる顔が、不満そうな顔が、照れた顔が、怯えた顔が。思い切りの良さが。気が強いところが。自分に正直なところが。優しすぎるところが。朝も夜も食べる時も必ず挨拶をするところが。ゆっくり食べる仕草が。すぐあちこち動き回るところが。他何やかやが。

「可愛い」
「…もう、わかりましたってば」
「わかってねェよ」
「ええ…?」
「ふ、こんな可愛い顔、他のやつには見せらんねェよなァ」

…何、もう怖いんだけど。大きな手が頬を撫でる。頭でも打ったの。わたしを抱き締めたまま、ずっとこの調子。謝っても、お願いしても、まだ続けると言う。よくそんなに出てくるな。ていうか、よく見てるな。

「困ってる顔も、嫌がってる顔も可愛い」
「言葉だけ聞いたら最低ですよ」
「そういう口答えも可愛いな?海賊に善人なんかいるわけねェだろ」

可愛い口答えって何…?何か、言葉に酔いそうなんだよ。思考力が鈍る。

「わたしにとっては、いい人ばっかりです」
「イズルが可愛いからだろ?」
「…もう、わかりましたってばあ」

胸焼けする。甘ったるいホールケーキ二個くらい食べてる気分。もう無理。

「短所がいっぱいあっても、大事にしてくれるってわかってるんです」

だから、わたしはわたしのままでいるんです。役に立たなくても、迷惑かけても、下りろなんて言われないから。だからわたしは、わたしのできることを精一杯やるだけで済んでるんです。

「…そういうとこ」
「…可愛いんですか?」
「飛びきりな」

ぎゅうぎゅうに抱き締めたまま、そのまま横に倒れる。頭の上で溜め息を吐かれた。ノックアウトですか。もう、黙ってくれますか。

「ありがとうございます」
「あァ?」
「怒ってくれて」
「…うるせェ」

何で、どうしてって思ったりもしたけど。たぶんこれからも思うけど。何かどうでも良くなった。こんな下らなくて面倒くさいことしてくれるんだから。これで充分じゃなかろうか。



***

「おい」
「…なあに?顔が怖いわ」
「あんた、何考えてんだよ。今までに、そんな素振り見せなかっただろ」
「あら、恋心は内に秘めておくものでしょう?」
「…何でもいいけどよ、あの二人に妙なちょっかいかけんのはやめろ」
「妙なちょっかい?何のことかしら?」
「惚けんじゃねェよ」
「…だって、イゾウ隊長みたいな人の隣には、わたしみたいな美人がいるべきじゃない?」
「はあ?」




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