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気になってることがある。少し酔いも回って、口が軽くなってるから聞いてしまおうかと思う。酒飲んでる時って判断力鈍るよね。これで車は運転しちゃ駄目だと思う。

「質問いいですか」
「どうした?」
「イゾウさんが、…んー、イゾウさんは?いつからわたしが…、そういう対象に入ってたんですか?」
「他に聞き方あんだろ」
「さっきの話聞いた後なら許容範囲」
「おれも聞きてェな。イゾウはいつからイズのこと好きなんだ?」

…わたしが必死で言葉を選んだ意味。でも、あのー、皆さんの話をお伺いしてると、わりと結構前々から気にかけてもらってたみたいなんですよ。何で?

「具体的にいつとかじゃねェよ」
「まあ、そうかもしれませんが」
「強いて言うんなら最初の時か?」
「最初って、釣りしてて海に落ちたやつですか?」
「あァ、きっちり挨拶するやつだと思ったよ」
「…それは、普通では?」
「飯食ってるとこで席立って、頭下げられんのは普通じゃねェ」

そんなことしたっけ。そこまで覚えてない。最初の頃はそこそこ気を張ってたから、そんなこともしたかもしれない。というか、よく覚えてるね?覚えてないんじゃなかったの?

「おれが謝ったら何て言ったか覚えてるか?」
「いいえ、全く」
「自分の自業自得だからいいっつったんだよ」

…ああ、それは言ったかも。でも実際ロハンさんのせいじゃないし。あの後一緒に医務室行ってくれてるし。

「あと、海賊の手ェ叩き落としたりとかな。そういうもんの積み重ねだよ」
「…聞けば聞くほどわからなくなりそうですね」
「そうか?」
「だって、明らかに可愛げのない子じゃないですか」

聞くからに気の強くて、男心を擽らなさそうと言うか。いや、わたしは男じゃないから知らないけど。可愛がり甲斐がないというか、守り甲斐がないというか、

「何か放っといても別にいいかなって感じしません?」
「いや、何言っちゃってんの?イズみたいな危なっかしいやつ放っておけねェよ」
「イズルってばわかってないなあ。女の子から頼ってもらわなくちゃいいとこ見せられないなんて、男として三流以下だよ?」
「自分で何とかしようとしてるから助けてやりたくなんだろい」

…はあ、そういうもんですか。助けてって言わなきゃ助けてもらえないのが普通だと思ってたんだけど。だから、皆が助けてくれるのすごいなって思ってたんだけど。

くしゃりと、大きな手が頭を撫でた。妙に優しい目が擽ったい。
結局、何がこの人の琴線に触れたんだろう。あんまり全然よくわかんないけど、今のままでいいのかなあ、と。それだけ思った。そんな風に好いてもらえるんなら、大事にしたい。



***

「随分賑やかだと思ったら」
「甲板にいたらえらい目に遭いそうだったんで、皆避難してきたんすよ」
「あら、どんな?」
「イズをえろい目で見てるかどうかみたいな、」
「馬鹿馬鹿馬鹿!言うな馬鹿!」
「…つまりここにいるお兄さん方は、そういうことを考えたことがあるわけね」
「巻き添えにすんな、馬鹿!」
「何の為にこんな暑苦しいとこで飲んでると思ってんだよ!」
「あら、じゃあ甲板に行ったら?」
「無理っす!」




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