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斯々然々、ハルタさんとサッチさんの説明に、マルコさんが腰を下ろす。すごい。めっちゃ贅沢。隊長が四人もいてる。そしてザッパスさんたちはそそくさと船内に戻ってった。よくわかんないことに巻き込んじゃってごめん。

「そりゃ、あいつらにゃ無理だろい」
「おれはもうちょっと頑張れると思ったんだけどなあ」
「イゾウを目の前にして、か?」
「ああ、そっか。それもあったね。イズルが普通に喋ってるから忘れちゃった」
「別に、イゾウさんだって人でしょうよ」
「あー、イズは知らねェ?こいつめちゃくちゃ短気なんだよ」
「はあ…?」
「機嫌悪ィとえらいおっかないからな。普通のやつはあんまり近寄らねェんだよ」
「機嫌悪い時はわたしも近寄りませんけど」
「いつ機嫌悪くなるかわかんねェから近寄らねェの」

…それは、物凄く損では?イゾウさんも、他の兄さんも。だって別に、悪い人じゃないのに。

「実は人見知りですか?」
「あァ?」
「いや、人と仲良くなるの苦手なのかと思って」
「…得意じゃねェよ」

見上げた顔が、ふい、とそっぽを向く。イゾウさんにも、ちゃんと苦手なことあるんだ。人付き合いはわたしも得意じゃないけど。

「勿体ないと思いますよ。別にイゾウさんがどうしようと勝手ですけど」
「…わかってる」
「んなこと言えんのイズだけだぞ」
「だって折角優しいのに」
「優しいのも、イズルにだけなんだよね」
「別にそんなことないと思いますよ。わたしが初めてイゾウさんと喋ったの、手に鱗生やした時ですもん。絶対わたしのこと大して認識してない」

もう随分前な気がするけど、初めてだったから覚えてる。ロハンさんと釣りしてて、海に落ちた。そんな、釣りしてて海に落ちるなんて経験ある?わたしはない。と言うか、釣りの経験も殆どなかったけど。

「よく覚えてんなァ」
「あの時はどうも、キャッチしてくれてありがとうございました」
「いや、気にすんな」
「イゾウに何て言われたの?」
「え、手は大丈夫か、みたいな?」
「普通だな」
「あと、何かあったら言えって言われたと思うんですけど…違いましたっけ」
「そこまで覚えてねェよ」

ありゃ、そっか。ま、わたしもうろ覚えだし。結局何にもなかったし。船で会うことも少なかったし。…この人、いつわたしを気に入ったんだ。



***

「お、お前ら無事か」
「無事じゃねェよ。何でイズは平気な顔で座ってられんだよ」
「そりゃ、イズだからだろ」
「最初っから、おれたちにも普通に話しかけてきたもんな」
「おれ覚えてんのがさァ、イズが最初に船ん中から出てきた時によ、…何て言ったか覚えてるか?」
「いや、おれたぶん見てねェわ」
「あいつ、はじめましてっつったんだよ。よくよく考えてみりゃ、普通じゃねェよな」




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