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可哀想な生け贄が三人。お気の毒様です。どんまい。

「何で正座してるんですか?」
「…隊長の前だからな」
「わたしもした方がいいですか?」
「本気にすんな。普段正座なんかしねェよ」

なァ?と聞くイゾウさんに、三人揃ってはい、と答える。そんなに?わたしが隊長に対して敬意を払ってないだけ?最初が最初だったからなあ。追加料金。懐かしい。

「別にイゾウだって取って食ったりしないと思うけど」
「いや、あの…はい」
「ふーん、後ろめたいことあるんだ」

ああ、楽しそうだなあ。本当にこの人は、ハルタさんはこういう時が一番生き生きしてる。外から見てる分にはわたしも楽しい。ごめん。

呼んだはいいけど、どうすんのかなあと思ってたら、何かひそひそ話し始めた。首を振ったり、頷いたり。何ぞや。八百長はなしだぞ。

「あは、どうしようかなあ。イズルにはちょっと聞かせらんないなあ」
「はい?」
「まァ、気持ちはわかんなくねェけどな」
「何、サッチもそうなの?」
「おれは相手がいるもんよ」

…あんまり、何の話か聞きたくなくなってきた。別に察しが悪いわけではないんだ。特別良くもないけど。苦手なもんは苦手。あんまりけろっと話したくない。他人事なら別にいいけど。

「じゃあ、イズルの水着姿見た人」

控え目に、手が三つ挙がる。そんな直球に聞くんだ。わたしが恥ずかしいんだけど。まあ、あんだけ泳いでたら、そりゃ見かけはするよね。

「上手に口説けたら、写真にしてあげる」
「は?」
「イズルの水着姿の写真」
「えっ、やだ!嫌だ!絶対に嫌だ!」

三人揃って、顔を赤くして項垂れる。何考えてんだ。やめろ。そんなに飢えてんのか。頑張れ。頑張って姉さんを口説け。

「気の強いとこ」
「…どうも」
「口説けって言ってんの。そんなんだから相手されないんだよ」
「…めちゃくちゃ弱い癖に気が強くて、自分よりでかい相手とか、隊長にも物怖じしねェところがいいと思います」
「はは、ぎり赤点だな」
「勘弁してくださいよ…」
「ハルタさんが無理矢理言わせてごめんなさい」
「ちょっと!おれのせいじゃ、」
「無理矢理じゃねェよ!本当に、その気が強いとこはすげェと思うし、それを捩じ伏せてやりたい気にはなる!」
「は?」
「あっ、」
「へェ…」

ねじ、…何だって?それは、あんまり詳しく聞きたくない方の話だな?イゾウさん、腕を緩めてください。肋骨折れる。

「はい」
「おっ、何だ?」
「どっちかっつーとナースの方がタイプだが、アリかナシかで言ったらアリ」
「よく言うぜ」
「まあ、生物学的には許容範囲でしょうけど」
「おれが?」
「んなわけねェだろ、馬鹿」

イゾウさんが投げた空き瓶が見事に命中する。酒なくなっちゃった。徳利から最後の一杯を注ぐ。ほぼほぼイゾウさんが飲んでるから、実は大して飲んでない。そして既に飽きてきた。結局アリなんだかナシなんだかよくわかんない。

「お前は?」
「…脚」
「脚?」
「…ナースの連中みたいに長いわけじゃねェけど、程よく肉のついた脚、が、いい」
「…食用?」
「別の意味だろい」

余計なこと言うな!でもお酒は嬉しい!いただきます!気がつけば甲板は大分静かだ。そのまま寝ちゃってる人もいれば、いつの間にやらいない人もいる。もうそんな時間?日付、は、超えてるけど。



***

「おい、引き上げだ」
「あんなん巻き込まれちゃ命が幾つあっても足りねェよ」
「イズもイズだ!いいですよ、じゃねェよ!あの馬鹿!」
「食堂で飲み直そうぜ」
「賛成」
「…今日は賑やかになりそうだな」




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