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「ごめん。イズル、本当にごめん。純粋ぶってるとか言っちゃったけど、本当に純粋だったんだね」
「はあ…?」
「いや、正直二、三人くらいは経験あるもんだと思ってたんだよね。だってほら、22歳なんでしょ?一人でも、まあ納得いかないことはないかなって思ったんだけど、まさかイゾウが初めてだとは思わなくってさ?だから、ごめん。色々聞いちゃったけどちょっと刺激が強すぎたよね?初めての彼氏がイゾウで大丈夫?おれ、代わろうか?」
「何かすごい失礼なこと言われたのだけはわかった」
「いや、おれも正直、…あー、だからそんなことになってんのな。納得いったわ」
「喧嘩売ってます?」

何なの。そんな項垂れるほど?別に好きでできなかったわけじゃねえわ。作ろうと努力もしなかったけど。そうですよ。もう数年頑張れば魔法使いですよ。…あれは男の子の話だっけ?

「…イゾウは知ってたのかよ」
「見てりゃわかる」
「嬉しくない」
「ああ、だからさっき機嫌悪くなったんだ?自分が初めてだと思ってたのに一人って答えたから」
「…それってそんなに重要ですか?」
「あー、言っとくが、付き合う理由にも別れる理由にもならねェよ?ならねェけど、自分が最初で最後ってのは男冥利に尽きるよなァ」
「…最後とは決まってませんけど」
「へェ…?おれに人生くれんじゃねェのかよ」

ぎゅう、と腕が絞まった。蛇かこの人。絞め殺して丸呑みすんの?えー、しそう。似合う。

「すげェ約束してんな」
「それ本気なんですか?」
「貰ったもんは返さねェって言ってんだろ」
「返すって言うか…イゾウさんの方が心変わりしたりとかあるんじゃないですか」

言ってから、ぎくっとしてハルタさんを伺った。これ以上でこぴんされたら本当に、本当に頭蓋骨変形する。

「いや、しないよ。今の話聞いたら合点がいったもん。そりゃ22年も相手いなかったらそうなるよね」
「…あんまり嬉しくないな」
「あっ、じゃあする?イズルがしてほしいって言うんなら、」
「結構です」

そんなに意外?わたしの周りには、まあ類友って言うけど。結構いたよ?付き合ったことない子。こっちではそんなことないの?何で?男女比率?

「イズルの国の男は何してたの?」
「何って、…何が?」
「いや、何でイズルに手ェ出さなかったの?謎なんだけど」
「別に謎でも何でもないでしょうよ」
「いや、わかんない。正直、イゾウのお気に入りじゃなかったらおれは手ェ出してた」
「いらない報告ありがとうございまーす」

それはあれじゃないですか。だってこの船九割男じゃん。

「ねえ、イズル可愛いよ。本当に可愛い。イズルの国のやつらが気の毒になってきちゃった。目玉取り換えた方がいいんじゃない?」
「は…?」
「髪長いのも良かったけど、短いのもいいよね。細い首がよく見える。肌白いし、睫毛も長いし。小っちゃい所も可愛い。もうちょっと食べた方がいいとは思うけど。気が強くて、おれに平手できちゃうとことか、うちの隊のやつらより余っ程かっこいいと思うよ」
「何の話?」
「イズルの話」

わたしの、猪口を持ったのとは反対の手を握って、つらつらつらつら言葉を並べていく。何これ。どうしたの。ハルタさん頭でも打ったの。わたしが打ったの頬っぺたなんだけど。

「別にイゾウとかルーカだけじゃねェよ?イズルのことそーいう目で見てんの」
「はあ…?」
「こないだの水着とかな。シャツが透けてっから、何人か鼻血吹いてたぞ」
「…それ、わたしじゃなくて姉さんにでは?」
「イズルにだよ。何ならその辺にいるやつに聞いてみるか?」
「いいですよ」

あ、目を逸らされた。まあ、わかるよ。嫌だよね。本人目の前にして、タイプじゃありません、なんて言いづらいよね。大丈夫。わたしはそのくらいで嫌いになったりしないから。



***

「待て待て待て、こっち見んな!」
「何だよ、お前もイズで抜いたのか?」
「抜いてねェよ!抜いてねェけど、…一瞬考えはした」
「あの気ィ強いとこが逆に、な」
「征服欲煽られんだよな」
「ザッパス!ちょっとおいでよ!」
「あああああはい!」
「うわ、ハルタ隊長のご指名か」
「骨は拾ってやるよ」
「おーい、お前らも来いよ!」
「サッチ隊長ォォォ!」




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