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打ち所が、悪かったんだろうか。平手が当たってしまってから、ハルタさんが喋らない。横を向いたまま動かない。いや、絶対そんな威力なかったよ。ちょっと赤くなるかどうかくらいでしょ。

「あー、イズ。普通で平凡なやつが、この船に乗れるわけねェだろ?」
「…まあ、度胸と思い切りは、人並みよりかはあると思いますけど」
「うん。普通、ハルタんとこの隊員だって、ハルタと口喧嘩なんかできねェからな?」
「リリーさんはできると思います」
「ああ、うん。今話してェのそこじゃねェんだわ」

都合悪くなったな?何?わたしサッチさんと第2ラウンドするの?

「イズは可愛いぞ」
「…そうですか。どうもありがとうございます」
「…、伝わってねェんだよなァ…」

知るか。何なんだ。少し冷静になってきた。なってきたからって、考えは変わんないけどな。さっき何言ってたかわかんなくなった。

「掃除とか、洗濯とか、当番じゃなくても手伝ってるとことか」
「はい?」
「エースとかジョズの代わりに書類書いてるとか」

…待って。何でそんなの知ってんの。

「何かわけわかんないところで泣き出すとか、何でもないことで大はしゃぎしてるとか…前の、桜の島でだって、イズルが船下りるんじゃないかって思ったし、今回だって、めちゃくちゃ心配した」
「…ハルタさん泣いてます?」
「うるさいな、黙って聞けよ」
「…はあい」
「イゾウだって殆ど寝てなかったし、皆島中走り回って、それでもいなくて、場所がわかっても、おれたちは、間に合えないし」

怒りは二次感情。怒りの元になる、例えば気持ち悪いとか、悔しいとか、…悲しいとか?

「何でおれたちの大切な、可愛い妹のこと、そんな風に言うんだよお…」

え、ええ…?そんなこと言われても、そんな泣く?わかってるよ、ちゃんと大切にされてること。じゃなきゃ助けに来てくれたりしない。

「イズ、マチのこと可愛いがってんだろ?」
「あ、はい。可愛いです」
「それと同じっつったらわかんねェかなァ?」
「…瞬きしてるだけで可愛いとか?」
「お前そんなこと考えてんの」
「同じじゃないじゃないですか」
「それはイゾウに譲るわ」
「イゾウさんだってそんなの譲られたら困りますよ」
「いや?困らねェよ?」

困れよ。わたしの瞬きにそんな価値あるかい。わたしの腹に跨がったまま、ハルタさんはそろそろ泣き止む。何かあれだね。ボス戦て感じ。



***

「すげェ…」
「ハルタ隊長に平手…」
「あれだよな。イズ、帰ってきてから前より度胸あるよな」
「修羅場潜ったって感じだな」
「…イズって普通に可愛いよな?」
「どうした、突然」
「いや、贔屓目とかじゃなくてよ。笑ってる顔とか結構タイプ、」
「止めろ止めろ!それ以上言うな!」
「あと、あの透けた水着はちょっとクるもんあっ、」
「止めろっつってんだろ!おれたちも一緒に殺す気か!」




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