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運命共同戦線



 先祖代々住んでいたこの地から、大好きなみんなと過ごしたこの地から、離れる決意をして出て行った背中を必死に追いかけた。
 あの地に一人置いてきてしまったヴィダが心配でないと言えば嘘になる。彼だって幼い頃からずっと一緒に育ってきた、大切な家族だからだ。だけどわたしには、オルカを一人にすることはできなかった。そんなことできるわけがないだろう。だってわたしは、オルカのことが好きなのだから。好きな人をこの世で一人にしてしまうなんて残酷なこと、わたしはできない。たとえそれが大切な家族との、ヴィダとの別れになったとしても。

「っ、オルカ……!」

 必死に走ってなんとかオルカに追いつくと、なんで追いかけて来たんだよと言わんばかりに彼が振り返った。

「……なまえは残ると思ってたんだけどなぁ。ヴィダと一緒にさ」
「どうして、そう思ったの」
「いや、どうしてって……そりゃオマエ、好きなんだろ? ヴィダのこと」
「……え?」

 まさかそんなことを言われるとは思わず、ぱちくりと瞬きをする。するとそんなわたしの反応を見て、オルカも驚いたように「えっ」と声を漏らした。

「確かにヴィダのことは大好きだけど、それは家族としてだよ?」
「は? マジで言ってんの?」
「うん、マジ」
「……なんだよ、俺の勘違いだったのかよ……」

 ぽそりと小さな声で何かを呟いた彼は、ガシガシと頭を掻きながら溜め息を吐いた。どうかしたのかと思い彼の顔を覗き込むけれど、ぱっと視線を逸らされてしまった。

「ねぇオルカ、わたしも一緒に行きたい」
「まぁ、あのままあそこに居ても死ぬだけだしな。一緒に来たいなら別にいいぜ」

 一緒に行くことを許してもらえて、ほっと胸を撫で下ろす。ここでオルカに拒まれてしまったら、きっとわたしは立ち直れなかっただろう。住処を出て来てしまった手前戻ることも出来ないし、仮に戻ったとしても「あ? 出て行ったクセにもう戻って来たのかよ」とヴィダに笑われてしまうだろうし。受け入れてもらえてよかった、本当に。

「けど、なんで俺について来たんだ? オマエなら一人でも生きられそうなもんだけどな」

 あー、でも今更一人で生きていくなんて無理か。寂しがり屋だもんな、なまえは。笑いながらそう言葉を続けた彼に言い返そうにも、本当のことなので何も言い返せなかった。
 わたしは昔から同胞が死ぬ度に悲しくて、寂しくて泣いていたから。そんなわたしが泣き止むまで傍に居てくれて、泣くなよって頭を撫でてくれたのはいつもオルカだった。ぶっきらぼうだけど優しくしてくれた彼に、恋をしない方がたぶん無理だったんだと思う。

「……そう、だよ。わたしは寂しがり屋だから、今更好きな人と離れて生きるなんて無理なの」
「そうだよな、今更好きなヤツと離れ……って、はぁ!? 好きなヤツ!?」

 大袈裟に驚くオルカの服の袖をきゅっと握る。
 黒縄夜行はもう、ヴィダとオルカとわたしの三人しか生き残っていない。その僅かな生き残りであるわたしたちだって、この状況的にいつ死んでしまうかわからないだろう。だからきっと、今伝えなければ後悔する気がした。

「わたしね、ずっと前からオルカが好き。だからオルカを一人にしたくないと思って、一緒にいたいと思って追いかけて来たんだ」

 わたしがそう言うと、また驚いたらしい彼が大きく目を見開いた。その瞳を綺麗だなぁと思うのと、オルカに腕を掴まれ抱き寄せられたのは、ほとんど同時だった。

「……俺も、なまえが好きだ。俺を追いかけて来てくれてありがとな、すげぇ嬉しかったぜ」

 オルカのその言葉が嬉しくて、彼の背中に腕を回してぎゅうっと抱き締め返す。
 この先どんなことが起こるのか、いつ死んでしまうのかわからないけれど。死ぬその瞬間までずっと、ずっとこの人の傍に、オルカの傍にいたい。そう強く思った。

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