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ミッドサマーオアシス



 冬はあんなにも心地が良く、冷え切った体を温めてくれたお風呂も、真夏ともなればただの地獄だ。まず冷房の効いた涼しいリビングから出たくないし、何とか気力を掻き集めてお風呂に入ったとしても、せっかく汗を流したのに出たそばからまただらだらと汗をかいてしまう。夏に入るお風呂は、もはや苦行ではないだろうか。

「暑い、無理……服着たくない……」

 いつもなら同棲している彼氏がいるし、汗をかきながらもきちんと服を着てから脱衣所を出るのだけど。今日はその彼氏、千くんは帰りが遅いと言っていたので、下着姿で出ちゃっても別にいいか。そう思った私は、着るはずだったパジャマを抱え、涼しいリビングへ戻る為に脱衣所のドアを開けた。

「今日はまた随分と大胆な格好でお出迎えだね、なまえ」
「……あ。千くん、おかえり」

 ガチャリとドアを開けた先には、ちょうど今帰ってきたらしい彼の姿があった。まさかこのタイミングで帰って来るとは思わず、どんなに暑くても服を着るべきだったなと内心ちょっと後悔した。

「ただいま。それで、その格好は僕を誘ってるの?」
「ただのお風呂上がりだから、誘ってるつもりはないんだけど……」
「脱衣所から出て来たんだし、風呂上がりなのは見ればわかるんだけど。なんで今日は下着姿なの」
「そこは察してよ、千くん。暑いからに決まってるじゃん」

 なんてことを言い合いながら、二人で涼しいリビングへと向かう。ドアを開ければひんやりとした冷気が漏れ出て、汗が滲む肌を撫でていった。

「涼しい……生き返る……」
「そうね。外は信じられないくらい暑いし」
「本当にね……」

 エアコンがないと生きるのが難しいくらいには、年々気温が上昇している。テレビでは毎日のように熱中症で搬送されたというニュースを見るし、災害級の暑さなんていう単語も耳にするようになった。文明の利器であるエアコンに頼らなければ、間違いなく熱中症で死んでしまうだろう。

「落ち着いてきたし、そろそろ服着ようかな」
「着ちゃうんだ? 服」
「え、うん。冷房効いてて涼しいし、さすがにこの格好のままだと寒いから」
「まあ、そうね」

 僕としては、そのまま誘ってくれてもよかったんだけどね。そう言葉を続けた千くんは、冗談なのかはたまた本気なのかわからない笑みを浮かべていて。

「……千くんもお風呂入って来たら? 仕事で疲れてるだろうし、早く休んだ方がいいんじゃないかな」
「残念。可愛い恋人が誘ってくれるのを期待してたんだけど」
「せっかくお風呂に入ったのに、また汗をかくのは嫌なので」
「つれないな」

 肩を竦めた彼は、じゃあ僕も風呂に入るかなとリビングを後にして行った。
 一人残された私は、いそいそと服を着ながら思う。最初は私をからかっているだけ、冗談だろうと思っていたけれど、千くんの「誘ってるの?」という言葉は本気だったのかもしれないなぁ、と。そしていくら家に一人だったとしても、今後はちゃんと服を着てから脱衣所を出ようと心に誓った。

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