ピロリン、ピロリンと立て続けにメッセージを受信する音がして、思わずため息が漏れた。それでも返信はしなければと、スマホを手に取り新着メッセージを表示させる。
「……やっぱり後輩ちゃんからかぁ」
メッセージを送って来た相手は、高校時代の部活の後輩。当時からそこそこ仲は良く、今でもたまに連絡を取り合ったりしているのだけど。
後輩から久しぶりにメッセージが届いたのは、一週間くらい前だっただろうか。お互いの近況を話したり、他愛もないやり取りをしたあとで、実は先輩にお願いがありましてと切り出された本題。それは、人数が足りなくなった為に合コンに来て欲しいというものだった。
わたしには今現在付き合っている恋人がいる。そんなわたしが出会いを求めて集まる合コンに行けるわけがなかったし、何よりあまりそういった場は好きではないので、丁重にお断りした。だけど、友達や知り合いにあたっても断れ続けたらしい後輩ちゃんはなかなか諦めてはくれず、どうしてもと頼まれ続けているのだ。
(ここまでどうしてもって頼まれちゃうと、断り続けるのも申し訳なくなってくるなぁ……)
何があっても行かない、断る。そう思っていたはずなのに、こんなに頼み込んでいる相手を断り続けているという罪悪感が芽生え始め、それが決意をぐらつかせていた。
彼の耳に入れることなく終わらせようと思っていたけれど、これはちょっと相談した方がいいのかもしれない。
「虎於くん、ちょっといい?」
「ああ。どうした?」
どうするべきなのか迷い出してしまったので、恋人である彼、虎於くんに事情を話すことにした。するとみるみるうちに彼の表情は歪んでいき、怒らせてしまったのが見てわかった。
「恋人がいるから無理だって断ったんだろ?」
「う、うん。でも、他の人に声を掛けても予定があるからって断れてるみたいで……」
「だからなんだ。合コンなんて行ってどうする。あんたには俺がいるだろ」
それとも、浮気相手を探しにでも行くつもりなのか。そう冷たく放たれた言葉に、ぶんぶんと首を振って否定する。わたしが好きなのは虎於くんだけだ。他の人なんて考えられないし、考えたくもない。
「なら、行く必要なんてないよな。どうしても断りづらいって言うなら、そうだな……彼氏とデートの予定が入っちゃったから無理だと言えばいい」
「え?」
「というわけで、なまえ。俺とデートしよう」
流れるようにするりと手を取られ、逃がさないと言わんばかりに恋人繋ぎをされた。繋いだ手はそのままに自らの口元に引き寄せると、彼の唇が軽く手の甲に触れる。その瞬間、虎於くんの視線は真っ直ぐこちらに向けられていて。あまりの色気にどくんと心臓が跳ねて、顔に熱が集まっていく。
「あんたが嫌だと拒絶しない限り、俺はこの手を離すつもりはないよ」
だから、せいぜい俺だけを愛するといい。そう続けられた言葉に、こくこくと頷くことしか出来なかった。
「さて、そうと決まれば早く断らないとな。……俺が断ってやろうか?」
「だ、大丈夫。自分で断れるよ」
そうかと微笑む彼の表情には、もう怒りの色は見えない。だけどどこかホッとしたような、安心したような顔に見えるのは、きっと気のせいではないのだろう。
わたしのせいでいらぬ心配をかけてしまったから、虎於くんには申し訳ないことをした。だからその分、彼にたくさん愛を伝えよう。わたしの気持ちを言葉にして伝えると、虎於くんはとても嬉しそうな顔をしてくれるから。