アイナナ | ナノ
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天邪鬼ラバーズ



 あ、もうこんな時間なんだ。そう思いながらリモコンを手に取り、ピッとボタンを押してテレビの電源をつけた。お目当てのドラマが放送するチャンネルへと切り替えると、もうすぐ始まる最新回が楽しみで心が弾んだ。
 そのドラマを見始めたのは偶然だった。見たい番組もないままにテレビをつけて、適当に見ていた時に始まったのが、ちょうど今私がハマっているドラマ。最初は見る気なんてなくて、面白くなかったらチャンネルを変えようと思っていたけれど、これがなかなか面白かったのだ。それ以来、私は毎週欠かさずそのドラマを見るようにしている。

「お風呂上がったー……って、何見てんの? ドラマ?」
「あ、悠くんおかえり」

 お風呂から上がったらしい彼は、まだ濡れている髪をタオルで拭いながらこちらへやって来て、どさりとソファに腰を下ろした。

「たまたま初回放送を見たんだけど、結構面白かったからハマっちゃって。それ以来見るのが楽しみなんだ」
「ふーん、そうなんだ」

 途中からでも話わかんのかな。そう言葉を続けた悠くんは、おそらく私と一緒にこのドラマを見るつもりなのだろう。髪を拭う手はそのままに、視線はテレビへと向いている。

「前回と話が繋がってるから、もしかしたらわからないかも……。なんとなくの流れ、説明しようか?」
「別にいいよ。楽しみにしてたんなら、そのまま見てればいいじゃん」

 わからないまま見てもつまらないだろうし、なんとなくあらすじを説明してあげた方がいいかなと思ったのだけど。それをいいと拒否されたのは、たぶん彼なりの優しさだ。わたしがこのドラマを見るのが楽しみだと言ったから、その邪魔をしたくないと思って気を使ってくれたのだろう。

「……ふふっ」
「なんかニコニコしてるけど、そんなに面白いの? このドラマ」
「うん。そんなところかな」
「そっか」

 悠くんの優しさが嬉しくて頬が緩んでしまった。肝心のドラマの内容はというと、特に面白いシーンでも何でもない。むしろシリアスな場面に突入していて、とてもじゃないけれど笑えるようなシーンではなかった。

「……この俳優さん、演技上手いなぁ」

 やっぱり主演に抜擢されるだけあって華があるし、素人目に見てもその演技力は素晴らしいと思う。上手く言葉にはできないけれど、その世界観に惹き込まれるような、そんな素敵な演技で。

「あんた、この俳優が好きなの?」
「え?」

 ただ単にドラマのストーリーが面白くて見ていただけだから、出演している俳優さん達を好きかどうかなんて考えたこともなかった。仮に何かを思ったとしても、有名な俳優さんだとこの人は知ってるなぁ、見たことあるなぁって思う程度で。

「だから、なまえはこういう男が好きなのかって聞いてんの」
「この俳優さんのこと、あんまりよく知らないから何とも言えないかなぁ。格好いいなとは思うけれど」
「は? 格好いいって思うなら好きじゃん! よく知らないとか言いながら好きなんじゃん!」

 確か職場の同僚が人気のイケメン俳優だと言っていたし、整った顔をしている人だし、世間一般的にも格好いいに分類されるんだろう。そう思って格好いいと言ったのだけど、何かあらぬ誤解をされている気がする。

「何か誤解されてる気がするんだけど……私が好きなのは悠くんだよ」
「っ……そ、そう! まあ、そんなの知ってたけど!」

 ちらりと隣に座る彼に視線を向ければ、ターコイズ色の綺麗な髪の隙間から見える耳が、頬がほんのりと赤く染まっていて。素直じゃない恋人が可愛くて、私の頬はまたゆるゆると緩んでしまうのだった。

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