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純愛シーカー



 大事にしたいと思う人間が増えるなんて、愛おしいと思うただ一人の特別な女ができるなんて、思ってもみなかった。それはおそらく、心のどこかでは思っていたからだろう。彼女もまた、自ら思い描いたイメージの俺にしか興味がなく、好意を抱かないだろうなと。
 だけど今はもう、そんなことは微塵も思っていない。求められるままに応えてきた、作られた俺じゃなく、ありのままの俺を素敵だと言って受け入れてくれたから。

「……もう寝たか?」
「ううん、まだ起きてるよ」

 どうかしたのと寝返りを打ったなまえに手を伸ばし、その体を腕の中へと閉じ込めた。抱き締めている彼女の体は、俺の腕の中にすっぽりと収まってしまうほど小さい。少し力を込めれば壊れてしまいそうで、時々不安になる。それを本人に言うと、硝子細工じゃないんだからそんな簡単には壊れないよと笑われてしまうのだが。
 別に、俺だってわからないわけじゃない。男女の体格差、力の差はあれど、そう簡単には壊れないとわかっている。でも、怖い。女を抱き締める時の力加減もわかっているし、力が強くなりすぎないように気を付けてはいるけれど。彼女を、なまえを傷付けてしまわないか怖いんだ。大切にしたい、大事にしたいと心からそう思っているから。

「今夜は、おまえを抱き締めて眠りたい。……ダメか?」
「もちろん、いいよ。今夜はわたしが虎於くん専用の抱き枕になってあげましょう」
「いや、別に抱き枕が欲しかったわけじゃないんだが……」
「ふふっ、冗談だよ」

 くすくすと笑った彼女が、まるで子猫が親猫に甘えるかのように擦り寄ってきた。これから寝るというのに、その可愛い行動はどうにかしてほしい。甘えてくれるのが嬉しいと思う反面、寝かせてあげられる自信がなくなってくる。

「たぶん、虎於くんが大きいからだと思うんだけどね」
「何がだ?」
「こうして抱き締められてると、安心するなぁって思って」

 だからわたしね、虎於くんに抱き締めてもらうのが好きなんだ。そう続けられた言葉に、それはこちらの方だと思った。
 壊してしまいそうで、傷付けてしまいそうで不安を覚えることがあるのも嘘ではない。だがそれ以上に、なまえを抱き締めていると安心するようになってしまった。そんなこと、今まで付き合った女には思ったことないのに。本気で誰かを好きなるというのは、こういうことなのだろうか。

「……俺も、なまえを抱き締めてると安心するよ。すごく心地がいい」
「そっか。じゃあ、お互いにいい夢が見られそうだね」

 会話が途切れて、どちらかともなくゆっくりと眠りに落ちていく。お互いの体温と鼓動を感じながら。
 なまえの言う通り、今夜はきっといい夢が見られるだろう。



『Words Palette hug!』より
11.閉じ込めた純情(力を込めれば、小さい、愛おしい)


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