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恋愛戦争



 わたしを見つめているその瞳も、告げられたその気持ちも、どこまでも真っ直ぐだった。それが嘘や冗談でないことくらい、疑うまでもなくわかる。
 でも彼は、悠くんはまだ高校生。同年代の子よりも、年上のお姉さんの方が魅力的に見えたりするお年頃だ。わたしも中学生や高校生くらいの時は年上の人を魅力的だと感じていたから、身に覚えがある。今は年下とか年上とか関係なく、素敵だと思う人に魅力を感じるのだけど。

「……あのさ、なんか反応はしてくれない? 無反応だとちょっと、どうしていいかわかんないじゃん……」
「あっ、ごめんね。ちょっと考え事してて……」

 告白されてんのに考え事するとか、何なのもう。ぶつぶつと文句を言ってる彼に、本当にごめんともう一度謝罪した。
 緊張しながらも告白をしたのに、その相手が無反応だったら誰だって不安に思うはずだ。せっかく勇気を振り絞って伝えてくれただろうに、悠くんには申し訳ないことをしてしまった。だけど、これから告げることの方が彼にとっては残酷かもしれない。だってわたしは、悠くんの気持ちに応えることはできないのだから。

「悠くんの気持ちは嬉しい。でも……ごめんね、その気持ちに応えることはできない、かな」

 正直、彼の気持ちはすごく嬉しかった。わたしも好きだよってその手を取ってしまいたくなるほどに。じゃあどうして、悠くんの告白に応えることができないのか。それは、わたしが臆病者だからだ。
 確かに彼の気持ちは今、わたしに向けられているかもしれない。けれど、もしその気持ちが年上への憧れからくる一時の感情だとしたら。仮に付き合ったとしても、また別の子を好きになったりして捨てられてしまうのだろう。わたしはただ、そうなることが怖かった。そんな身勝手な理由で告白を断ったなんて知られたら、幻滅されてしまうだろうか。ああでも、その方が都合がいいのかもしれない。

「悠くんにはもっと素敵な子が現れると思うし、わたしへの気持ちなんて早く忘れて……」
「……は?」

 彼から発せられたのは、普段よりも低い声。怒らせてしまったと思った時には既に遅く、一歩、また一歩と距離を詰められる。こちらを真っ直ぐに見つめる金糸雀色の瞳には、わたしだけが映っていた。

「素敵な子が現れるとか、どうでもいい。オレが好きなのは、目の前にいるなまえなんだけど」

 こんなに好きなの、あんただけなのに……。続けられた言葉に、ギュッと胸が締め付けられる。
 傷付けて、しまった。悠くんの気持ちに向き合っているようで、向き合っていなかったんだ。勝手にそうだと決めてつけて逃げて、傷付けて。

「え、ちょっ、急に何っ!? どうしたの?」
「……ごめんね」

 彼にそっと手を伸ばして、その体を優しく抱き締めた。まさか抱き締められるとは思っていなかったのだろう、驚いて声を上げた悠くんに謝罪をする。今日のわたしは彼に謝ってばかりだ。

「っ、別に慰めなくていい! ……振るならちゃんと振ってよ。そうじゃないとオレ、諦められそうにないから」
「ごめん、それは無理」
「はぁ!? 無理ってなんで!?」
「……わたしも好きだから。今更って思われると思うけど、悠くんが好きです」

 こんなことなら、うだうだと考えていないで最初から彼の気持ちに応えていればよかった。心配とか不安とか全部置いておいて、わたしも好きだよって素直に言っていればよかった。なんて、後悔してももう遅いけれど。

「……ホントに?」
「うん、本当」
「じゃあ、もう一回。もう一回、言ってよ」
「信じてもらえるまで何回でも。好きだよ、悠くん」

 うん、オレも。そう言われるのと、強い力で抱き締め返されるのはほとんど同時だったと思う。

「もう絶対逃がさないから、せいぜい覚悟しといて」

 耳元で囁かれて、心臓が大きく跳ねた。
 もう逃げるつもりなんてないから安心してほしい。だけど、悠くんこそ覚悟しておいてね。どうやらわたしは、人よりもちょっと愛が重いタイプらしいので。



『Words Palette hug!』より
28.逸るままに(逃がさない、強い力、どうしたの)


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