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不器用ショコラ



 普段よりも授業に集中できなかったのは、きっと今日がバレンタインだからだと思う。頑張って手作りしたチョコを彼は受け取ってくれるかな、喜んでくれるだろうかとついつい考えてしまって。先生には申し訳ないけれど、授業の内容は上手く頭に入ってこなかった。
 午前中最後の授業を終えるチャイムが鳴り、お昼休みに入った教室は一気に賑やかになった。何人かの女子は慌ただしく席を立って教室から出て行ったので、バレンタインのチョコを渡しに行ったのかもしれない。わたしも渡さなくちゃと、バッグに入れていたチョコを取り出して席を立つ。

「和泉くん、ちょっといいかな?」
「はい。どうしました?」

 後ろ手に持っていたチョコを、よかったらと和泉くんに差し出した。絆創膏まみれになってしまった手をどうにか隠せないかなと、ブレザーの下に着ているカーディガンの袖を伸ばしながら。

「ありがとうございます。これ、手作りですよね」
「う、うん。やっぱりわかっちゃうよね、これだけ絆創膏まみれだと……」

 どんなにカーディガンの袖を伸ばして隠そうとしても、指先はどうしても見えてしまうわけで。和泉くんがすぐに手作りだと気付いたのは、おそらくこの手のせいもあっただろう。

「そんなに絆創膏まみれになるなんて、一体何を作ったんです?」
「……トリュフチョコ」
「えっ」
「お恥ずかしながら、わたしすごく不器用で……」

 不器用なんだからわざわざ手作りしなくたっていい。むしろ、既製品の方が綺麗だし美味しいから喜ばれるんじゃないか。そう思ったけれど、せっかく彼氏がいるバレンタインなんだから、手作りにチャレンジしてもいいんじゃないかと友達に言われ、頑張って作ってみたのだ。
 その結果、包丁で指を切ったり湯煎をしていた鍋で火傷したりして、絆創膏まみれの手になってしまったのだけど。

「ちゃんと味見したから、味は大丈夫だと思うんだけど……その、形が歪だったらごめんね」
「私のために作ってくれたんでしょう? たとえ歪な形をしていても、嬉しいに決まっています」

 大切にいただきますねと言葉を続けた和泉くんは、とても優しい表情をしていた。その微笑みに心臓が大きく跳ねて、急に恥ずかしくなってしまって、わたしはこれでと慌てて自分の席へと戻った。
 受け取ってもらえてよかったと安堵しながら、熱くなった顔を隠すように机に突っ伏す。不器用だからと今まで手作りチョコは避けてきたけれど、今年はチャレンジしてみてよかった。あとで友達にもお礼を言って、いつも通り既製品にした友チョコを渡そう。放課後にチョコを交換しようと約束をしているから、その時に。

「いおりん、なんか嬉しそう。いいことあった?」
「そうですね。私にとっては、とても」
「へぇ〜。何があったかはわかんねーけど、よかったな!」

 教室の中は賑やかなはずなのに、和泉くんと四葉くんの会話が聞こえてしまった。彼が嬉しそうな理由はもしかして……なんて、自惚れてもいいのだろうか。机に突っ伏したままの顔を上げるのは、もう少し先になりそうだった。

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