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いたずらに微笑む三日月



 自分では大丈夫だと思っていてもやはり疲れていたのか、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
 夜しっかりと眠る為にも起きなくては。そう思いながらも夢見心地に揺蕩っていると、唇に何か柔らかい感触を覚えた。何だこれはと重たい瞼をゆっくりと持ち上げれば、視界に飛び込んできたのは彼女の顔だった。

「……っ」

 まさか眠っている間にキスされているとは思わず、驚いて身じろいだ。するとオレが起きたことに気付いたのか、閉じられていた瞼が開いてぱちりと至近距離で目が合った。

「ご、ごめんなさい! これはあの、違うの!」

 ばっと一瞬で離れていったなまえは、両手をぶんぶん振りながら何やら弁解を始めた。
 ひとまず寝転がっていたソファから起き上がり、彼女に向き直る。

「驚いたけど別に怒ってるわけじゃねえし、そんな慌てなくてもいいって」
「本当にちょっとした出来心で、三月くんの寝顔可愛いなって眺めてたらしてしまっていて、だからその寝込みを襲おうとか、そういう疚しい意図は全然なくて……!」
「うん、わかった。わかったから、とりあえず落ち着け!」

 ほらここ座ってと、ソファの空いているスペースを軽く叩く。わかったと頷いた彼女がこちらへやって来て、大人しくソファに腰掛けた。
 さっきまでの慌てっぷりと勢いはどこに行ったのやら、その姿はまるで悪いことをしてしまい、叱られると思っている子供のようで。少し意地悪をしたくなってしまう。

「いや〜、まさか寝込みを襲われるとは思ってなかったわ。もしオレがあのまま寝てたら、おまえは一体何をするつもりだったんだろうな?」
「だ、だから、それは違……っ!」

 覆い被さるようにソファの背もたれに手を置いて、なまえとの距離を詰める。お互いの息遣いを感じるほど近いからだろうか。彼女の顔は赤く染まっていて、こんなにも近いのに視線が合わない。

「なあ、こっち。ちゃんとオレを見て」

 なんて言ったものの、その瞳にオレが映るまで待てるわけもなく。自分の唇を彼女のそれに押し付けて、塞いだ。一度で満足するはずもなくて、何度も触れて柔らかい唇を味わう。

「……っ、三月、くん……」

 触れてはまた離れてを何度も繰り返しているキスの合間に、なまえがオレの名前を呼んだ。その声は砂糖を溶かし入れたみたいに甘くて、我慢できなくなりそうで。
 隙間から舌をねじ込み、彼女の舌と絡み合う。じわりじわりと高まる甘美な欲に、このままソファに押し倒してしまおうかと考える。最初に寝込みを襲ってきたのはそっちなんだし、仕返しってことで。



『Words Palette hug!』より
7.君に目が眩む(一瞬で離れた、赤い顔、我慢できなく)


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